その31.                                          
もう一つ、マミーが色々考えさせられる事があったんだ。
それは、ダディの大学時代からの友達の家に行った事だった。
ダディはミシガン大学を卒業したので、アメリカンフットボールの試合でミシ
ガン大学対ミシガンステート大学という宿命の試合に招待されれば、何が何で
も見に行くんだ。
大学時代からの友達のディブさんから電話があって、是非見に行こう、チケッ
トは手に入れたと言って来たんだよ。
それに、新しい家も建てたから、是非見に着て欲しいという誘いだった。
モチロン、マミーとダディは出かけて行ったんだ。

デイブさんの家はミシガンで小さな湖のほとりに建っていた。
全面ガラス張りで玄関を入ると二階分の高さの吹き抜けで、インテリアの雑誌
に出てくるような、それは凄い家だった。
デイブさんも奥さんも車の会社のエグゼキティブで多分、家だけで1ミリオン
はしそうだった。
マミーとダディが中に入ると、ワンワンと犬の鳴き声がして、2匹の犬が奥か
ら出てきたのだけれど、何だかヨレヨレなんだって。
2匹の犬はシャーペイで1匹は黒、1匹はゴールドだった。
このシャーペイはヌードじゃなくて、スポーツ刈くらいの短い毛が生えている
けれど、あちこちがはげはげで皮膚病みたいだった。
それに、目が見えないのか、壁にぶつかっては方向転換をし、またぶつかって
は方向転換をする。その上、耳もよく聞こえていないらしい。

デイブさんが「この子がミミでこの子がロンだよ」と紹介してくれたんだ。
マミーはこの犬達はきっと100歳くらいの年寄りに違いないと
「デイブさん、この2匹は幾つですか?」
と聞いたら、「10歳と9歳だよ」と答えた。
マミーはビックリしてしまったんだ。
目は白内障で失明寸前で耳はほとんど聞こえないし、毛は抜けてハゲハゲで立
ち上がるのも精一杯みたいなんだ。
10歳と9歳!! その時、マミーの心の中に僕たちの事があったんだ。
いつか、僕たちも、このミミとロンみたいになるのかと。

デイブさんはシャーペイが大好きで大学時代から、ずっとシャーペイだけを飼
ってきたんだって。何が魅力かと言われても、ただ、好きなんだって。
それに、地下には100インチ以上のTVのあるホームシアターと犬の部屋が
あって、マミーは犬の部屋を見て、またまた、ビックリしてしまったんだ。
部屋は犬の事をよく考えた設計で普通の家のマスターベッドルームくらいの大
きさだ。ドアは好きな時に自分で出入りが出来るように、ドアの下の方に、犬
用のドアが付いていて、押せば入っていけるようになっている。
外には砂利ひきの3畳くらいの場所を作ってあって、これはトイレなんだ。
ここも、部屋からは自由に出れるように犬のドア−がついていた。
インテリアも凝っていて、壁にはシャーペイのイラストや写真、似顔絵がきち
んと額に入って飾ってあって、下手な子供部屋より素敵だった。
二匹用のベッドも2つあって、デイブさんがどんなにこの犬達を可愛がってい
るのかが判ったんだ。デイブさんは
「犬は種類によって寿命が違うんだ。特にシャーペイは年を取るのが早いんだ。
純血種のものは血が濃すぎたりして遺伝子的に問題が多く出やすいんだよ。
だから、病気に掛かりやすかったり、弱かったり、何か問題を抱えて生まれて
きたりすることがある。大きい犬は比較的寿命は短いし、急激に大きくなる犬
も細胞分裂が激しくて、余り長生きは出来ないんだ。だから、本当は雑種が一
番健康だし、利口だし、余り遺伝的に問題がないんだ。でも、そう判っていて
も、僕はシャーペイが好きだから、次の代も犬はシャーペイって決めている。
ミミもロンも凄い年寄りみたいだけど、まだ、10歳だよ。でも、もう長くな
いだろうなって、覚悟しているよ」と話してくれたんだ。

デイブさんがミミとロンを愛している事がマミーに伝わってきた。
自然に息が絶えるまで、この家で見とってあげたいんだ。

家に帰るまでの間、マミーは考え込んでしまった。
僕もチチも何十年も生きれる訳じゃない。僕はその時7歳でチチは6歳だった
けれど、ミミとロンのヨレヨレさ加減と僕たちを重ね合わせて、重い気持ちに
なってしまったんだ。何時か、絶対に別れなければならない時がやって来る。
確実にやって来る。
どんなに長生きしても12−14歳が限度だろう。そうでないと、自分で起き
上がれなくなったり、病気に掛かったり、僕たちも苦しむかも知れない。
いつか、香港のクリステーンさんが病気のリオを眠らせたように、自分も決断
する時が来るのだ。と悲しくなってしまったんだ。
だから、なお更、僕とチチを大切にしよう、この世で一緒に過ごせる時間は限
られているのだから。と決心したんだ。
                                       
つづく(次号掲載は5月10日を予定しています)