新しい友達マーレン

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反対隣はフランクさんとアイリーンさんというやっぱり、お年寄りのカップル
だ。
レジ−という10歳位のポメラニアンを飼っている。
フランクさんは75歳位で、元弁護士さんだった。 後で判ったんだけれど、
ここはリタイアメント ビレッジみたいなものなんだって。
ご近所はお年寄りが多くて、元判事、元弁護士、元社長さんとかが多くて、大
きな家に住んでいたのをダウンサイジングといって、小さい所に移り住む事な
んだって。
子供達も大きくなって結婚したりすると、大きな家は必要でなくなってしまう
し、 家の周りの事も自分たちで出来なくなってしまうので、ここのように、
マネージメント料を払って、コミュ二テイで管理するんだ。

隣りのリルさんは5年前に旦那さんを白血病で亡くしてから、一人住まいで淋
しいらしい。
マミーを見かけると、話し掛けて来るけれど、話が長いんだよ。
淋しいから話相手が欲しいみたいだ。
それに、ヒマなので、近所の情報に精通していて、マミーはすぐに「ラジオ 
ステーション」というあだ名をリルさんにつけた。

はじめは僕たちの事も普通の犬達だと思っていたようだけれど、僕たちは咆え
ないし、音をたてないし、マミーのコマンドで行動するのを見て、ビックリし
たみたいだった。
僕たちもリルさんが大好きで、外で声が聞こえると、挨拶に行きたくなるんだ。

ラジオステーションのリルさんは僕たちの事も近所に「信じられない位良く訓
練された良い犬たち」と宣伝してくれた。
本当はリルさんは近所の犬達のことは良く思っていなかったみたいだ。
散歩で家の前を通ってウンチをしたりシーシーをしたりするのが気に入らなか
ったんだ。
ウンチは飼い主が掃除しないからいけないんだけど、時々、無神経な人もいる
からね。

マミーはリルさんとは仲良くしないと、これは大変だと直感した。
リルさんはご近所噂話をよくマミーに聞かせていた。
「お向かいに以前、シェルテイがいたけれど、ゴルフコースにウンチをして飼
い主が掃除しなかったから、追い出された」とか、ここのルールーがいかに厳
しいかを毎日、とくとくとマミーに話したんだ。

リルさんはマミーが素直に話を聞くので、とっても気に入って自分の事をマミ
ーのアメリカン マザーと名乗った。とにかく、何もする事がなかったから、
うちにお客さんが来ると窓からチェックしている。
次の日、「昨日、誰か来ていたわね。誰?」と聞いて来る。
マミーもちょっと、わずらわしいとは思ったみたいだけれど、なんだか番犬み
たいなご近所で家には絶対に泥棒は入らないと思ったんだ。
ダディは会社に朝6時半に出かけて行くので、マミーが僕たちの朝の散歩係り
だ。
7時に起きて、すぐに散歩に出かける。家から3分の湖を一周して帰ってくる
コースだ。
大体1時間位の朝の散歩だ。毎朝、同じ時間に出かけると、同じ人達と会うん
だよ。
皆、とってもフレンドリィで「グッド モーニング」とか「ハーィ」と声を掛
けてくる。
犬を連れての散歩の人達も沢山いるんだ。でも、犬達はあんまりトレーニング
されていないみたいで、僕たち新参者は嫌いみたいだ。

引越しをしたのが11月のサンクスギビングの日だったから、すぐに冬になっ
た。
僕たちは香港生まれて、1年中真夏だったから、この冬という季節は生まれて
初めての経験だったんだよ。
湖の周りも秋から冬になり木の葉の色が変り、花も枯れて、毎日風景が変って
いくんだ。マミーは、散歩しながら、毎日感激していた。
これは香港では絶対に味わえない自然界のパワーだと思ったんだ。

そんなある日、僕たちは女の人と白い小さいテリアと出会ったよ。
今までで出会った犬の中で一番心の和む不思議な犬だったんだ。
マミーとこの女の人は話をした。やっぱり、切っ掛けは僕らとこの不思議なテ
リアが出会ってすぐに、お互いが大好きになったことだった。
テリアは僕の顔に大好き、大好きと100万回キスをした。初対面の犬にこん
なにべたべたされたのは初めてだったし、僕は他の犬だったら絶対にさせない。
チチもこのテリアが大好きになった。弟みたいなんだ。
女の人は年はマミーと同じくらいでシェリルさんといい、この不思議なテリア
の名前はマーレンだった。このマーレンがバカいとこのダステイとスク−ビー
以外で、初めてアメリカで友達になった犬なんだ。
本当に、人間もマーレンと出会うと、心が和んで、メロメロになってしまうし、
犬達もみんなマーレンが大好きなんだ。本当に不思議な犬なんだ。

マミーは自分が算命学という中国の自然思想学を元にして、人間の運勢のリズ
ムを読む話をした。シェリルさんは銀行に勤めていたが、実は「霊気」という
ものをマスターして、週末は霊気治療をしている話をした。シェリルさんの妹
さんはサイキックなんだって。マミーもどうも、話が合うし、気の流れがお互
いに似たものがあって、シェリルさんが大好きになったんだ。マーレンはやっ
ぱり、飼い主のシェリルさんが見つけて来た犬で何か特別の能力を持っている
ようなんだ。
シェリルさんはマーレンは落ち込んだり、ウツになっている人を見分けられて、
自分から側に行って、気持ちを和ませるんだと話していた。
僕たちは、マーレンに会うのが、凄く楽しみになって行ったんだよ。

季節は真冬になった。
僕は初めて雪を体験した。ブリザードというのがある晩来て、朝起きると、雪
はマミーの腰くらいの高さまで積もっていたんだ。もちろん、僕もチチも埋も
れてしまう。
何だ、この白くて、冷たいものは! 足の裏は冷たくて、何だかわからず、は
じめは恐る恐るだったけれど、裏のゴルフコースを駆け回ったら、一遍で雪が
好きになったよ。
ブルドーザーみたいに積もった雪の中をズンズン進んで、チチと転げまわった
ら、楽しいんだ。体中が真っ白になってもこの生まれて初めての体験が僕は大
好きになった。
                                          
つづく(次号掲載は3月15日を予定しています)