ゴルフ場のガチョウ
その24.

でも、問題があったんだ。
気温がマイナス10度位までは良いのだけれど、それ以下になると、僕らの足
の裏が道路に張り付いてしまい、肉球が割れてしまうんだ。
歩きながら、痛くて痛くて、ピョコピョコと変な歩き方になったので、マミー
が気付いた。
チチは指の間に入った雪が溶けて、瞬間的に凍って氷の塊になって痛くて歩け
ない。
夜、マミーは僕たちの足の裏を見て、ビックリした。
僕の肉球はパックリと裂けてしまい、刃物で切ったみたいになっていた。
直ぐに、オリーブオイルを塗ってマッサージしてくれたけれど、マミーはこの
ままでは、外は歩けない事に気がついたんだ。
次の日、近くのペットショップに僕たちのブーツを買いに行った。
そして、またまた、大ショックだったんだ。
マミーのスノーブーツがセールで25ウだったのに僕のブーツは50ドルなん
だ。
チチのは小さいから35ドル。マミーは幾らなんでも、自分の履いているスノ
ーブーツの2倍もするのは、絶対に許せない!と思ったんだ。

アメリカのペットショップは体育館くらいの大きさがあって、何でも揃ってい
る。
僕たちもお店の中に一緒に入って行って、ショッピングが出来るんだよ。
初めてマミーとお店の中に入った時は、大興奮だった。
もちろん、クッキーやおやつの美味しそうな匂いもそうだけど、大きな檻の中
に、鳥がいたり、二十日ネズミやトカゲ、モルモットなんかがいて、もう、ハ
ンテングしたくて、チチなんか、お店の中で武者震いをしたんだ。あー、お店
の中を走り回ったら、楽しいだろうなー。おやつも食べまくって、小さい動物
や鳥を追いかけたい。楽しいだろうなーと僕はしばし、空想の世界に入ってし
まったくらいだ。

結局、50ドルのスノーブーツはしっかりと作ってあるけれど、どうせ、歩い
ているうちに無くしたりするだろうからと、14ドル50セントの一番安いも
のになった。
フリースを小さく切って、袋状にして、足に履かせた後、マジックテープで止
めるだけのシンプルな作りで、マミーはこんなもの作れるなーと思ったからな
んだ。
とにかく、その日の午後から、お出かけの時はこのブーツを履かされるように
なった。
何だか、歩きにくいんだ。確かに、冷たくないんだけど、歩きにくいんだ。
それに、雪の中では、必ず、1足すっぽ抜けたりして、マミーは脱げてしまっ
たブーツを探し回らなければならない。
それから、マイナス15度以下になると、セーターや何かを着ないと寒くてい
られない。
チチの毛は凄く短くて、寒さが身にしみるらしいんだ。
これも、この辺の散歩の時はいいんだけれど、週末にダディと森にハンテング
に行くと 
必ず、木の枝に引っ掛けて、脱げてしまって、どこかで無くしてしまう。
ペットショップで僕とチチのお揃いのトレーナーやシャツを買ってもらったけ
れど、人間のトレーナーより高いんだ。それも、皆無くしてしまった。
マミーは春になったらガレージセールで子供用のセーターを沢山買って、無く
しても良いようにしなければと気が付いたんだ。
こうして、初めての冬はマミーも凄く勉強したんだ。
 
裏のゴルフ場は冬の間は僕とチチのプレイグラウンドになった。
外の道は凍ってしまって、車もスリップするし、危ないから、ゴルフ場を散歩
するんだよ。
ただ、リビングの前が池だから、沢山のガチョウがいるんだ。
ガチョウは空飛ぶネズミって言われるくらい、ゴルファーにも人にも嫌われて
いる。
それは、ウンチを所構わず垂れ流すからなんだ。
マミーが初めてガチョウのウンチを見た時は犬のウンチだと思ってしまった位
大きいし、濃い緑で汚いんだよ。ここでゴルフする人たちはガチョウのウンチ
を踏まないでゴルフは出来ないくらい、ウンチのカーペット状態なんだ。
僕たちは他のゴルフ場で週末はグース パトロールといって、ガチョウをゴル
フ場から追い払う為にスク−ビーとダステイと任務を遂行していたんだ。

でも、あれはとっても暖かい1月のある日の事だった。
外は雪で真っ白だったけれど、良いお天気なので、マミーが、さあ、ゴルフ場
をお散歩しようとリビングの窓を開けた。
マミーには見えなかったけれど、僕とチチは右の方にガチョウの群れがいるの
がわかったんだ。 
僕たちは鉄砲玉の様に、すっ飛んでガチョウの群れに突入していった。
そうしたら、バカなガチョウが飛び立たないで、逃げたので、チチがジャンプ
して、あっという間に捕まえたんだ。もちろん、僕も参加して、ガチョウを捕
まえた。
興奮のルツボだった。いつもは、すぐに飛んでしまうから、僕たちは追いつけ
ない。
でも、あの日は簡単に捕まえられたんだ。
僕が首を噛んだからガチョウはすぐに動かなくなった。
動かなくなったら、僕たちは興味がないんだ。ハンテングしたいだけだからね。
でも、マミーが血相を変えて、飛んできた。
「ストップ、ストップ、ゴー ホーム」って凄い声で怒鳴るから、僕とチチは家
に帰ったよ。
マミーは動かなくなったガチョウを抱いて家まで持ってきた。
マミーはオロオロしていた。ゴミ袋に入れて、ガレージにおいて、直ぐにデビ
ーさんに電話したんだ。
「大変なのよ。タマタマとチチがガチョウを捕まえたー。どうしよう!」
「良かったじゃない。皆、ガチョウが大嫌いなんだから、ゴミの日に一緒に死
体をだしちゃえば?」
デビーさんは能天気な返事をした。マミーもそうか、ゴミの日に出せば良いん
だと納得した。所が、話はそれでは済まなかった。
すぐに、となりのラジオステーションバーさんのリルさんから電話が掛かって
来たんだ。
「ちょっと、ご近所の人達から電話が来たんだけど、貴女のところの犬がガチ
ョウを襲ったんですって。私は見ていないんだけど」
「ええ、でも、ガチョウは死んでいません。気を失っていただけで、家まで連
れてくると、気が付いて飛んで行きました」と苦し紛れのウソをついたんだ。
このリルさんが見て居なかったのが幸運だった、とマミーは思った。
「隣のアンさん知っているでしょう。パーキンソン病で動けないから窓から双
眼鏡で見張っているのよ。それに、あのガチョウも餌付けしているから自分の
ペットだと思っているのよ。だから、貴女のところの犬が自分のペットを殺し
たって騒いでいるの。きっと、警察かアニマル アクティビストが貴女のとこ
ろに行くから、覚悟していなさいよ」
と マミーを脅した。マミーはビビッてしまったんだ。
ダディは日本に出張中で連絡は取れないし、もし、警察やアニマル アクティ
ビストなんて来たら、面倒な事になってしまう。
マミーは死体遺棄をする事を決心した。
ガチョウの死体を入れた黒いゴミ袋を車の後ろに放り込み、僕とチチを乗せて 、
捨てる場所を探しに出かけていったんだ。
もし、誰か尋ねて来たって、ガチョウの死体がなければ、トボケられぞ!と思
ったらしい。
マミーはあせっていた。走っても、走ってもいい場所が見つからない。
もう、午後6時で公園も閉まっている。1時間位の間、マミーは捨てられそう
な場所を探し廻ったんだ。でも、茂みがあっても、誰かの庭だったり、人に迷
惑を掛けるのは、嫌だったから、困ってしまったんだ。そこで、思い出したの
が、浄水場だった。
家から2K位離れている所で廻りは木を植えたり、夏の間は貸し畑になる所だ。
こんな真冬に人はいないだろうと、敷地に入って行って、すぐにガチョウの死
体を茂みの中に放り込んで、脱兎のごとく、僕たちは家に帰った。

結局、その晩、誰も尋ねて来なかったけれど、マミーは悪夢にうなされていた。
もしかすると、雪の上のスノーブーツの足跡で見つかるかも、とか、車のタイ
ヤの跡でマミーが犯人だとばれるかも、なんて、殺人犯みたいにうなされてい
た。

その後、ラジオステーションバーさんはただ、アメリカに来たばかりのマミー
を苛めて楽しかったのか、今度は、反対となりのアンさんが皆の嫌われ者のガ
チョウやアライグマの餌付けをするのが気に食わないとマミーに話した。

マミーは、このバーさんだけとは、どんな事があっても揉めないようにしよう

                                          つづく(次号掲載は3月22日を予定しています)