フロリダの僕とチチ
その25.

冬は厳しかった。何時までたっても、外は雪で真っ白だ。
マミーは手に入れたコタツから出れなくて、毎日香港や北京やインドネシアで
買って来たアンテークの石で作品を作っていた。

ある日、ダディはフロリダに出張だと出かけて行ったんだ。
2月で毎日、マイナス15度、20度で僕たちも余りの寒さに外でシーシーを
したら、直ぐに家に戻って来て、外を散歩するのは興味がなくなっていた。
マミーは、フロリダかー、いいなあ。 レイク バーリングトンは70%位の
住人が冬はフロリダに行ってしまうらしい。この寒さはお年寄りには堪えるの
で、11月から3月位まで暖かい所で暮らすのだそうだ。アメリカ人はいい暮
らしをしているなあ。と常々感じていたらしい。

1週間して、ダディは出張から帰ると、マミーに言った。
「来週、一家でフロリダに行くぞ。タマタマもチチも一緒だよ」
「えー、車で行くの?」
「そうだよ。2日間掛けて、ドライブだ」
ダディは出張中にペットの泊まれるホテルも探して、ちゃんと家族旅行の準備
をしてきたんだ。遊園地好きのダディはオーランドのデズニ−ワールドも行こ
うと計画していた。
僕たちは今まで家族旅行なんて連れて行って貰った事はなかったから、一緒に
旅行するなんて信じられなかった。
マミーは、2週間の旅行の為に大荷物を作り始めていた。僕たちのごはんも2
週間分だから、缶ミートやクッキーなんかも荷造りしていたんだ。
でも、僕たちは落ち込んだ。
どうしても、僕たちが一緒に行けるのが信じられなかったからだ。
 
そうして、出発の朝が来た。車に大荷物を乗せて、家族旅行だよ。
ダディの車も後ろの座席は倒して、僕たちが寝そべるようにしてあるから、僕
たちは楽チンだ。2−3時間走ると、レストエリアに泊まって、シーシーした
り、マミーたちはコーヒーを飲んだりした。8時間ドライブして、初めの夜は、
テネシーの小さい町に泊まった。
アメリカの人達は犬やネコを連れて旅行するから、モーテルも沢山ペットOK
の所があるんだ。マミーは、ペットOKだから、きっと汚い所だろうと思って
いたみたいだけれど、とても清潔で僕たちもベッドで一緒に寝たんだよ。

次の日もまた、8時間ドライブして、フロリダのフォーワートンビーチという
所についた。
ダディは前の出張の時ホテルを予約してあったんだ。
そこは、ビーチの上のコテージだった。小さいお家みたいなのが沢山建ってい
て、僕たちの部屋はハネムーンスイートと言って一番高い部屋だったんだよ。
マミーは部屋に入ってビックリして、
「どうして、ハネムーンスイートなの?もっと、安い部屋でいいじゃないの」
とダディに言うとダディは
「フロリダは今ハイシーズンで部屋が空いてないんだよ。それに、ペットOk
の所は数が少ないから、この部屋しか空いてなかったんだ」と説明した。
でも、マミーは凄く部屋が気に入ったんだ。二回目のハネムーンだとはしゃい
でいた。
部屋のバルコニーを出るとすぐにビーチでこの部屋専用のプライベートビーチ
みたいだ。僕はビーチの砂の上に寝転んで、海を眺めるのが好きになった。

次の日から、ダディは朝から仕事に出かける。
ダディは新しいジェットスキーのエンジンのテストに来ていたんだ。
僕たちとマミーはビーチを朝の散歩したあと、バルコニーでマミーは仕事、僕
たちはビーチで海をぼんやりと眺めていた。
フロリダは夏だ。シカゴを出るときにマイナス15度だったのに、フロリダは
27度だった。
別の国みたいだった。僕は、この暖かさが大好きになった。
香港にいた頃を思い出すよ。

お昼になると、ダウンタウンまで散歩に出かけるけれど、ダウンタウンはスー
パーマーケットが一軒だけの超田舎町だ。ビーチと車道の間の小さい道をテク
テク歩いていると、とにかく、ジーさん、バーさんしか会わないんだよ。ホテ
ルのコテージも皆お年寄りばかりだったんだ。だから、東洋人のマミーは凄く
珍しいし、40歳越えていても、60,70,80歳の人達から見ると、ヤング
 ガールだったんだ。
ビーチにはトレイラーハウスという家が建っていて、これは、トラックや車の
後ろにつなげて移動できる家なんだ。
フロリダはお金持ちの別荘も沢山あるけれど、僕たちがいたビーチは普通の人
達の田舎町だったんだよ。

2日目のお昼に僕たちがブラブラとダウンタウンに向かって散歩していると、
ビーチの小さい公園におじいさんとシャーペイが居たんだ。
おじいさんは僕を見つけると、待っていたみたいに、話し掛けて来たんだよ。
「こんにちは、見かけない顔だけれど、旅行ですか?」
「はい、シカゴから昨日着いたんですよ。マイナス15度の所から来たから、
本当にここは天国ですね」とマミーは答えた。
「へー、変った犬ですね。何の種類?」
「この犬達は香港から連れて来たんです。大きい方がお父さんがラブラドール
でお母さんは中国犬の雑種です。名前はタマタマ。小さい方は捨て犬だったの
を主人が拾ったので何の犬か判りません。名前はチチです」
「へー、香港からねえ。私はジムといいます。ミシガンで農業をやっているの
だけれど、冬の間は雪で閉ざされてしまうので、11月から4月まではフロリ
ダ暮らしなんですよ」
とおじさんは自己紹介した。

それから、おじいさんとマミーは公園のベンチに座って、お喋りしたんだ。
この町は色々な州から冬になると人々が寒さから避難してくるんだって。
皆、トレーラーハウスを持っていて、リタイアーした人達がほとんだから、若
い人は珍しいんだって。夏の間は湿気と暑さがひどいから、皆自分の家に帰っ
てしまうんだそうだ。おじいさんももう、15年も冬はフロリダ、夏はミシガ
ン生活を続けていると言った。

別にお金持ちの人達じゃなくても、こんな風に人生を楽しめるのは素晴らしい
とマミーはすっかり感心してしまったようだ。

ジムさんと別れて、ダウンタウンに行くと、町の探検を始めた。
コーヒーハウスが1軒。アンテークショップが一軒。でも覗いて見ると、アン
テークではなくてゴミばかりだった。洗濯やが一軒、お土産屋が一軒。小さい
モールの中に、コーヒーショップが一軒、中華料理のテイクアウトの店、1ド
ルショップ、そして、唯一のスーパーマーケットだった。

マミーは、スパーマーケットで朝用のコーヒーやパンを買って、次に1ドルシ
ョップの探検に行った。
マミーは僕たちを1ドルショップの前の柱にリードを結んで、
「ちょっと待っててね。ショッピング行ってくるよ」と言って、店に入って行
ったんだ。
こんなのは慣れっこだから、僕もチチもお座りして、マミーのショッピングが
終わるのを待っていたんだ。
そうすると、色んな人達が、僕たちの所に来て、
「ハーい、ドギー」と声を掛けて来るんだよ。
頭をなでてくれたり、僕たちがじっとおとなしいのを見て、ビックリする人達
もいた。
マミーは1ドルショップが相当気に行ったみたいで、中々出て来ないんだ。
今度はお姉さんが僕たちの横に一緒に座って、チャイニーズのお弁当を食べ始
めたんだよ。
丁度、ランチタイムだから、僕たちもおなかが空いたなーと思っていたんだ。
そうしたら、お姉さんは僕とチチに自分のランチを分けてくれたんだ。
本当は、外でマミー以外の人のくれるものや、外に落ちているものは食べては
いけないんだけど、お姉さんがフライドチキンを僕の鼻ずらに押し付けてきた
ので、思わずパクって食べちゃった。
そうしたら、マミーが店から出て来たんだ。
お姉さんはマミーに
「いい子達ですねー、おとなしく待っているのにはビックリ」と言って、僕た
ちの頭をナデナデして、バーィとス−パーマーケットの方に歩いて行ったんだ。
お姉さんはスーパーマーケットで働いている人みたいだった。
マミーにはお姉さんからフライドチキンを貰った事は絶対に秘密にしようと僕
とチチは決めたんだよ。                  
                                   
つづく(次号掲載は3月29日を予定しています)
                                        
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