マミーのお庭にて
その32.

季節は真夏だ。
シカゴに来てからの初めての真夏だ。
冬の間はマイナス15度、20度と厳しかったのに、今度は真夏は40度なん
ていう気温になる日があるんだ。
ここは、とっても自然が厳しい所なんだ。

元々、僕たちは人間よりも体温が高いし、汗をかいて体温調節が出来ないから
、あんまり暑いと、グッタリしてしまう。
その上、ダディは電力会社が昼間エアコンを使わなければ10ドル電気代ディ
スカウントというオファーを受けて、マミーは昼間はエアコンなしだ。
香港にいた頃はいつも海辺に住んでいたから、一日中窓を開け放していると、
海風が入って来た。だから、マミーはこの家も全部の窓を開けたけれど、風が
無い時はまるでオーブンの中にいるようだったんだ。
さすがに気温40度は耐えられない。マミーは余りの暑さにめまいを起してい
た。
そこで、僕たちは全員で地下室に避難だ。
地下室は階段を半分降りただけで、まるで冷蔵庫みたいにヒヤ−とする。
上と下とでは20度くらい温度が違うんだ。

こうして、僕は快適な隠れ家を見つけたよ。一人になりたい時、考え事をした
い時、暑い時、雷が鳴り始めた時、僕はいつも地下室に隠れる事にした。

ある朝、お隣のラジオステーションのリルさんから電話があった。
「ちょっと、アンタの所の犬が私のゴルフコース側のポーチにウンコしたでし
ょう?!」
「えー、タマタマもチチもリルのところでウンチなんてしませんよ」
「いいから、見に来なさい」

実は、冬にたった一度だけ、チチがお腹をこわして、外から帰って、リルさん
のガレージの横の茂みの中にゲリゲリをしてしまったんだ。
ダディがマミーに掃除するように言ったのだけれど、雪の中だったから、マミ
ーは見つけられなかったんだ。
そうして、春になって雪が溶けたらチチのウンチが化石になって出てきたんだ
よ。
それ以来、何かあると、リルさんはチチはウンコたれだと思って、僕たちのせ
いにするんだ。

マミーはすぐに靴を履いて、ゴルフコースに出て、リルさんのポーチに行った
んだ。
リルさんが待っていた。
「見てよ、これよ」

それは、直径30CM位のアメーバ−みたいな形だった。
まるで、ペンキを沢山こぼしたみたいな濃い液体みたいだったんだ。
色は蛍光塗料のまっ黄色。どうして、これが、チチのウンチに見えるのだろ
う?
「ダディー、ちょっと来て、これ見てよ」
とダディを呼んで、2人で調査を始めた。
ダディは木の枝拾って来て、その黄色いアメーバーみたいなものを恐る恐るつ
ついてみたり、顔を近づけてみたりしたが、内容物がないんだ。
全くのペンキみたいなんだ。それに色が不自然だ。ま黄色だもの。

「リル、これは犬のウンチじゃないよ。他のものだ。何だか判らないけれど、
絶対に家の犬がしたものじゃない」
と毅然と宣言した。
マミーも何だか気持ち悪いもので、あれは何だろうと考えたんだ。そして、ダ
ディに
「あれは、エイリアンのウンチだ!」
と言い始めた。

次の朝、またリルさんが電話してきた。
「昨日はごめんなさいね。あのあと、あの黄色いのはスクランブルエッグみた
いにブクブクと膨れて、凄い事になったのよ。娘に来てもらって見たら、あれ
はカビなんですって。すっかり、私はチチのウンチだと思い込んでいたから、
濡れ衣を着せてしまったわね。娘に掃除してもらったので、もういきれいにな
ったから」

マミーは、何−、カビ−、あんなにチチをウンコたれ呼ばわりしたくせに!と
思ったけれど、謝ってくれたし、カビだと判ったのだから、良かったなあとホ
ッと胸を撫で下ろした。
そして、この事件を「エイリアンウンコ事件」と名づけたのだった。
                                        つづく(次号掲載は5月17日を予定しています)