その39. お隣りのラジオステーションオバーチャンのリルさんは毎朝、湖の周りを散歩 するのが日課なんだ。 でも、2−3日、姿が見えなかったので、マミーも僕たちも、どうしたのかな あとちょっと、心配になっていたんだよ。 いつも、お隣りの窓から僕たちが出かけるときも外から帰って来ても、じっと 見張っている人だからね。姿を見かけないのは、おかしいんだ。 ある日、マミーが庭の花の世話をしていると、リルさんの娘さんのパットさん がお隣りから出て来たので「ハーい、パット、お元気ですか?そう言えば、リ ルをここ、2−3日見かけないけれど、旅行にでも出かけたの?」と声を掛け たんだ。 「ハーィ、サラ。違うのよ。3日前にそこの角の家の前で倒れたので、今病院 に入院中なのよ」 パットさんの話によると、朝の散歩の帰りに3軒隣りに引っ越して来た新しい 住人を見つけて、いつもの様に、お喋りをしていたらしい。すると、急に気分 が悪くなって、その場で倒れてしまったんだって。ラッキーだったのはその新 しい住人は元看護婦さんだったので、リルさんが倒れた時に直ぐにガレージの 中に寝かせてくれて、救急車を呼んでくれたんだって。元々、心臓が悪いので 、軽い心臓麻痺じゃないかと思うけれど、今検査中なんだって。 「えー、それは、大変。どこの病院に入院したの?」 「そこのグッドシェパード病院。4回の6号室よ」 「じゃ、お見舞いに行くわね」 マミーは直ぐにイルゼさんに電話をしてリルさんが倒れて入院中な事を報告し て2人でお見舞いに行こうという事になったんだ。 僕とチチは病院には行けないから、車の中で待っていたけれど、リルさんは病 院では元気になっていたらしい。 夜になってダデイが帰って来ると 「ねえねえ、リルが倒れて救急車で運ばれたというので、病院にお見舞いに行 ったのよ」 「えー、じゃ、あの日かなあ。僕がタマ、チチと森から車で戻ると、あの角の家 の前でリルが近所の人とお喋りしていたけれど、その後、シャワーを浴びて、 コーヒーを飲んで、 会社に行く時にも、まだ、リルは同じ場所で喋っていたよ。その間30−40 分はあそこで喋っていたんだなあ。その前からだとすると、1時間位、あそこ にいたんじゃないか?そうか、あの後、倒れたのか」 リルさんが倒れる前をダディも目撃していたんだ。 マミーは、リルさんが80歳を越えているのと、いつも、心臓のこと、夜眠れ ない事、お出かけと言えば、全部ドクターアポイントメントの事ばかり話して いたので、頭の隅にいつも、リルさんのお葬式に出ることを考えていたんだ。 それから、リルさんが病院から戻ると、突然、家を売ることにした、町のアパ ートに引越しする事にした事を聞いたんだ。 リルさんの家は僕らの家と丸っきり同じ。だから、ベッドルームは二階なんだ。 リルさんは旦那さんを亡くしてから、8年間一人で暮らしたけれど、一人には 大きすぎる事、階段の上り下りがもう辛い事を理由に引越しをする事にしたん だ。 マミーとダデイはもし、また、倒れたりしたら、新しいアパートじゃ誰も助け てくれないかもしれない、ここに居れば、自分たちが見て上げられるから、安 心なのになあと話していたけれど、他人には判らない事は沢山あるから、推測 するのは止めようという事になった。 リルさんは家を売って、アパートに移って行ったよ。 すぐに、新しいお隣りさんが入って来たけれど、この人達は冬の間はフロリダ に住んで、夏の間だけ、隣りに住むんだって。 実は、マミーは大歓迎だったんだ。1年の内半分しかいないし、年齢も同じ位。 それに、干渉されるのが嫌な人達だから、丁度いいんだって。 あの、番犬みたいに、いつも見張られているのは本当は生き苦しかったので、 何だか、ノビノビして来たんだ。 チチの事をウンコたれ呼ばわりしないし、お隣りにもコッカスパニュエルがい るけれど、散歩している所も見ない。 時々、ゴルフコース側の庭でマミーが花の世話をしていたり、僕たちが遊んで いると、ワンワンと咆えているけれど、別にうるさくない。 でも、名前も知らないんだ。ま、いいか。 その頃から、マミーも体の調子が悪い事が出てきた。 人間の女の人には更年期とかいうのがあって、体がおばさん体に変化するんだ って。 顔が急に暑くなったり、何だか疲れやすかったしてきた。でも、一番の悩みは 髪の毛が抜けた事だ。 ある日、マミーは頭のてっぺんに25セントくらいのはげを見つけた。 「げー、なんだこりゃ、ストレスもないのに、なんで、円形脱毛???」とビ ックリして、病院に行くと、病院の先生が 「大丈夫、大丈夫。ホルモンの加減です。男の人とは違うから、直ぐ生えてく る。薬を上げるので、様子を見なさい」と言った。 本当に、直ぐ生えて来たけれど、またその横が抜ける。また、生えると繰り返 していた。「まー、仕方ないか、更年期障害だー」とあきらめる事にしたんだ。 ところが、今度は僕の毛が抜けて来た。 丁度、両足のももの所と首の周りにはげが出来た。 僕たちは冬毛から夏毛になるときに抜け替わるから、始めはダデイもマミーも 心配していなかったんだけど、シャンプーの度に、物凄い毛がごっそりと抜け る。 マミーは両手ですくうほど僕の毛が抜けたので、これは尋常じゃないぞと気が ついた。 「ダデイ、見て見て。タマちゃん、ハゲが沢山出来てるよ」 「アー本当だ、でっかいハゲだ。どうしたんだろう?獣医さんの所に連れて行 って、見て貰ったほうがいいな」 僕はちょっと、痒かった。だから、時々ゴシゴシスクラッチもしていた。 スキンがドライになって、フケみたいにポロポロ剥がれ落ちた。 遂に、僕の大嫌いなドクターの所に行く事になったんだ。 ドクターは僕のスキンサンプルを検査した。 「スキンサンプルの検査の結果、寄生虫もついていないし、アレルギーにして は抜ける場所が違う。アレルギーの場合は背中やサイドの毛が抜けますが、タ マタマは首のの周りと両太ももで場所が違うんですよ。原因が判らない。何か のアレルギーかもれないし、炎症かもしれない。とにかく、抗生物質を出すの で、飲み薬と塗り薬で様子を見ましょう」と言って、100ドルチャージした。 帰りの車の中で「マミーの毛が抜けると、タマちゃんの毛が抜ける。そう言え ば、タマちゃんが足の怪我をした時にはマミーも足が痛くなった。そうか、マ ミーと、タマちゃんと一心同体なんだ。深く、結びついているという事なのね」 と独り言を言って、納得していた。 マミーは僕のためにダディの使っているシャンプーの4倍も高い薬用シャンプ ーを買ってくれた。その御蔭か、すぐに、僕のハゲは直ったんだ。マミーのハ ゲが直ったと同時に。 つづく(次号掲載は7月12日を予定しています) |