その61.

この話はブレンデンさんとラッキーの話だよ。
ブレンデンさんの奥さんのシャーリーさんはある日、脳出血を起して倒れて、
昏睡状態になってしまったんだ。
お医者さんは多分、もう目を覚ます事はないだろうから、覚悟してくださいと
ブレンデンさんに宣告した。
ブレンデンさんとシャーリーさんは郊外で小さな農場を経営していたけれど、
シャーリーさんが倒れてから、ブレンデンさんは一人で農場を保つのに苦労し
ていた。
朝早くから農場の動物達の世話をして、その後は出来るだけ長い時間、病院で
シャーリーさんの側にいる。
でも、そんなある日の朝、丁度、シャーリーさんが昏睡状態になった直ぐ後に、
一匹の犬がブレンデンさんの農場に姿を現したんだよ。
その犬は白い体に茶色の大きなブチのある優しい顔をした犬だった。
来る日も、来る日も、どこからか姿を現して、ブレンデンさんの側でもう、大
昔からそこに居るような顔をしてブレンデンさんの相手をしてくれるんだ。
この犬の優しさはまさに、奥さんの病気を心配して、農場を切り盛りして疲れ
てしまっていたブレンデンさんが一番必要としていたものだったんだよ。

ブレンデンさんはもしかすると、近所の人の犬かも知れないと聞いて廻ったけ
れど、誰も、その犬の事は知らなかった。
でも、ブレンデンさんはその犬が側にいてくれる事がとってもハッピーだった
んだ。
その犬は、毎日農場に姿を現すけれど、夜になると姿を消してしまう。
ブレンデンさんは裏庭にフェンスを張って、大きな囲いを作って、その犬を入
れて農場にとどまらせようとしたんだ。
でも、一体どうやってその囲いから出たのか全く判らないのだけれど、犬の姿
は消えてしまっていた。
そうして、朝になると、また、どこからか姿を現すんだ。

ある日、ブレンデンさんは農場の朝の動物達の声やラッキーと名づけたミステ
リアスな犬の咆え声をテープにとって病院でシャーリーさんに聞かせたんだ。
それから、毎日、毎日同じテープをシャーリーさんに聞かせた。
そうすると、病院の先生もシャーリーさんは昏睡状態からは目覚めないと言っ
ていたのに、奇跡としか説明が出来ない事が起きたんだ。
何と、シャーリーさんは目を覚ましたんだよ。
それから、シャーリーさんは何ヶ月かのリハビリのすえ、やっと家に帰ること
が出来た。
ラッキーはポーチのイスに座って農場を眺めているシャーリーさんの側にいつ
も、寝転んで相手をしていた。シャーリーさんもラッキーが大好きになってい
た。
でも、ある日、シャーリーさんが体調も良くなり、歩けるようになると、煙の
ように姿を消してしまったんだよ。
そして、二度と、農場には姿を現さなかったんだ。
ブレンデンさんは、シャーリーさんにこういったんだよ。
「ラッキーは彼を必要としている誰かを助けに行ったんだと思うよ。シャーリ
ーもこうして元気になり、彼はもう心配ないと去って行ったんだよ。」
するとシャーリーさんは
「ラッキーは私の天使よ」と答えた。
本当に、誰もラッキーがどこから来たのか、知らないんだ。
ある日突然姿を現し、ある日突然姿を消してしまった、ミステリアスな犬の話
なんだ。
                              
つづく(次号掲載は12月13日を予定しています