その64.

ダディとマミーは実はインド料理が大好きだ。
でも、アメリカに引っ越してから中々インド料理は食べられない。
だから、インド料理というと、何があっても、そっちに二人とも行ってしまう
んだ。
ダディの大親友で今は仕事上のボスでもあるビルさんは子供達の為にナニーさ
んを雇っているんだけど、そのナニーさんはインド人のおバーちゃんなんだ。
それに、ビルさんは太っ腹な人でその一家全員の面倒も見ているので、誕生日
やパーテイは必ず、インド料理が並ぶんだよ。

ある日、そのナニーさんの娘さんから子供の誕生日のパーテイだからとダデイ
とマミーは招待された。他のパーテイも重なってしまったけれど、二人とも、
ナニーさん一家が作る家庭料理が美味しいのを知っているから、全部他はキャ
ンセルして、そのパーテイに出かけたんだよ。
もちろん、僕とチチも一緒にね。

ビルさんの家の近くで2番目の娘さんの家だ。
彼女はポーランド人のジョージさんと結婚していて一人娘のブリアナちゃんの
6歳の誕生日だった。
マミーはいつも、不思議な組み合わせだなあと思っていた。
奥さんがインド人で旦那さんがポーランド人。
でも、娘のブリアナちゃんは凄い美人になりそうな女の子だ。

ジョージさんの家につくと、僕とチチは車の中で待つか家の中に入るかどうし
ようか?とダデイ達は相談していたけれど、取りあえず、ジョージさんに聞い
てみようと玄関に向かうと中から、キャンキャンと凄い声がする。
僕とチチも何事かと車の窓から頭を出して見ると、それは、凄いデブのチワワ
だった。
僕はあんなにデブのチワワは始めてみたよ。
それに、エバリくさって、自分がドーベルマンかなにかと勘違いしているみた
いだ。
「ハロー」
ってマミー達が家に入るともう、皆アッぺタイザーを食べ終わっていた。
「ジョージさん、家の子達も一緒なんだけど、車の中で待たせておいた方がい
いわね」
「ノーノー、庭で遊ばせていいですよ。このチワワはビスケット。それに、も
う一匹庭に新顔がいるんだ。仲良く出来るかなあ」
「OK.じゃ、うちの子達を庭に連れて来ます」
という訳で僕とチチは車から降ろされて、お庭に向かった。
今度はまた、違う犬だ。ギャイン、ギャインって凄い声だ。
チチと同じ位の大きさの真っ白な犬が、凄い勢いで、僕たちに吠え掛かって来
た。
僕とチチは全く無視したけれど、この白い犬はチチの顔jに向かってギャイン
ギャインと向かってきたので、段々とチチの目つきが変ってきたんだ。
いつでも、こい!って感じだ。

ジョージさんとダデイとマミーはポーチに座って、僕たちは近くのフェンスに
結ばれた。
「この子は先週、アダプトしたんだ。名前はホワイテイ」
真っ白で長い毛で綺麗な犬だ。マミーは日本で昔流行したスピッツに似ている
なあと思ったらしい。
「で、何犬?」
「アメリカンエスキモードッグなんだ。この子にはヒストリーがあってね、お
金持ちの家で子供が犬を欲しがったのでペットショップから800ドルで生後3
ヶ月で買ったらしいんだけれど、とにかく、檻の中に閉じ込めて、オシッコも
ウンチもネコ用のトレイの中でさせようとしたらしいんだ。でも、まだ3ヶ月
の子犬だよ。出来るはずがない。それで、粗相をしてしまったら、殴る蹴るの
虐待が始まり、首輪を掴んで、振り回されて壁に投げつけられ、最後は獣医さ
んの所に持ち込んで「こんなバカ犬はいらないから殺してくれ」って置いて行
かれた。でも、獣医さんはこんなに美しい可愛い子犬を殺す理由がない。その
まま、すぐにシェルターに連絡していい家にアダプトされるように頼んだんだ。
僕は丁度ビスケットも10歳になり、そろそろ新しい犬が欲しいと思い、イン
ターネットで見つけたんだよ。でも、人間の子供をアダプトするほどは厳しく
はないけれど、二度と虐待されないように、シェルターは僕たち一家のバック
グランドの調査をして、2週間のトライアル期間を持って、家族全員やビスケ
ットとうまくやっていけるかどうか試して、大丈夫と判ってからアダプト出来
るんだ。僕は一目惚れだったよ。可愛いだろう?」
ホワイテイという犬はまだ7ヶ月なのに、そんなに凄い生活をしていたのかと
僕はビックリした。
「本当に可愛い犬ねえ」とマミーが言うとホワイテイは体を擦り付けて、もっ
ともっと可愛いって言ってくれって甘えた。
「そうか、こんな可愛い子を虐待する人達がいるのか」
とダデイが言うとダデイに擦り寄る。
でも、僕とチチには凄い勢いで吠え掛かるんだ。
「そんなにヒドイ目に合ってきて、やっとジョージさんの所で幸せになったん
だから、タマタマやチチが来たら、危機だと思ってムキなるわよね」

ジョージさんは無類の犬好きだ。僕にもよーーーく判る。
3人はポーチでずっとホワイテイの話をしていたんだ。
「ビスケットは娘が生まれる前に飼いはじめて、全くしつけをしなかったんだ。
だから、何の芸当も出来ないし自己中心的な自分勝手な犬になってしまったん
だ。でも、まあ、それでいいと思っているけれど、ホワイテイはプロに訓練し
てもらっていい子になるようにしつけるつもりなんだ。それにしても、オタク
の犬達は良くしつけてあるねえ。感心したよ」
すると、マミーは鼻高々になって
「タマタマもチチも学校に行ったし、子犬の時にしっかりとスパルタ教育をし
たから、無駄咆えはしないし、良く言う事はきくし、静かで手が掛からないい
い子達よ」
それを聞いて僕は行方不明事件の事やマミーを困らせた事をジョージさんにば
らさなかったのでホッとした。
ジョージさんはシミジミした顔で言った。
「こんな話も犬好きじゃないと理解出来ない話なんだよね。虐待された犬の悲
しみや辛さに心を痛めたり、助けたいと思ったり、本当に可愛いよ。犬達は」
「本当ね。犬や動物が嫌いな人たちには理解出来ないでしょうね」
家の中は招待された人達が酒盛りを始めて盛り上がっていた。

デイナーよ、と奥さんが呼びに来たので、マミー達は中に入り、ビスケットと
ホワイテイはジョージさんのオフィスに入れられて、僕たちはそのまま、お庭
にいたんだ。

食事が終わると、ジョージさんが
「お宅のベビー達は大丈夫かな?良かったら、ここにおやつがあるから、好き
なだけ、あげていいよ」とキッチンの戸棚を開けた。
マミーはひっくり返りそうになってしまったんだ。
その戸棚にはペットショップで売っているあらゆるオヤツがダーーーーーと並
んでいて、マミーが高いから絶対に買わないオヤツもダーーーーと並んでいた。
マミーは自分も相当ペット馬鹿だけど、ジョージさんは上を行くなあとひたす
ら、感心して夜はふけて行ったんだ。(その晩、僕たちはお腹一杯、オヤツを
食べた。幸せだったよ)
                                          
つづく(次号掲載は2月28日を予定しています)