その69.
このお話はパサデナのある秋の日から始まったんだ。
ジュリーおばちゃんはいつもの様に、近くの森までお散歩に出かけた。
途中にある空き地までくると、か細い消え入りそうな声を聞いたんだ。
「エッ?」
それは、ネコらしい。おばちゃんは空き地に入り込み、その声の主を捜した。
すると、ブッシュの中に、血だらけのネコが瀕死の状態で、横たわっていたん
だ。
コヨーテか野良犬に襲われたらしく、右の前足は噛み切られ、お腹も噛まれて、
腸が飛び出してしまっていた。
このままでは死んでしまう!とおばちゃんは自分のジャケットを脱いで、その
血だらけのネコを包んで、家に帰った。
そのまま、車に乗せて、シェルターに連れていったんだ。
でも、もう、死にそうだし、手術するのも凄くお金が掛かる。シェルターの人
は、これは、可哀想だけれど、眠らせるのが一番ですよと、ジュリーおばちゃ
んに言ったんだ。
おばちゃんはこの世に生まれて来て、死んで行くのは仕方がないとしても、死
に方というものがある。こんな死に方はアンマリだ!とそのまま、救急病院に
ネコを連れて行った。
獣医さんは、これは大変な手術になるし、助かるかどうかは五分五分である事
とお金も相当掛かるとジュリーおばちゃんに言った。おばちゃんは全部費用を
払うから、何とか助けてやって欲しいと頼んだんだ。 おばちゃんは神様に
何とか、ネコが助かるようにとずっと、祈ったんだよ
手術は2時間以上掛かった。その後も、何日も生死の間をさ迷ったけれど、き
っと、おばちゃんのその気持ちが通じたんだね、ネコは右前足は無くなってし
まったけれど、生き返ったんだ。
退院してから、さて、ネコをどうしようかという事になったけれど、おばちゃ
んの家には2匹のドーベルマンがいる。犬達はネコはウエルカムじゃないし、
ネコはまだ、まだ、誰かの世話がなければ、生きられない。そこで、ジュリー
おばちゃんはお友達のジョンソンさん達を思い出した。
ジョンソンさん夫婦は元、旦那さんがエアラインのパイロット。 奥さんが同
じエアラインのフライトアテンダントだったのだけど、二人とも早いリタイア
をして大きな農場を買った。
そして、そこで、大の動物好きのご夫婦は「ブライトヘブン」と言う動物サン
クチュアリを作ったんだ。
年取ってお払い箱にされた動物や重い病気や先天的な治療不可能な病気の動物
達が最後まで、幸せに暮らせるようにという想いからだったんだよ。
だから、ロバもいる、ブタもいる、鹿もやぎもオーストリッチも何でも引き取
る。
まるで、個人の動物園みたいなんだ。
ジュリーおばちゃんは奥さんのサマンサさんに電話をして、この野良猫の話を
すると、いつでもOKだから、連れていらっしゃい、という返事だった。
次の日、ジュリーおばちゃんは車を飛ばして、このサンクチュアリにネコを連
れて行った。
おばちゃんは名無しでは可哀想だからとオリバーという名前をネコにつけたん
だよ。
サンクチュアリには70匹のネコ、50匹の犬がいた。
交通事故で半身付随になった犬やネコは下半身を補助車に乗せて、元気に動き
回っているし、どの動物達もみんな幸せそうだった。
ジュリーおばちゃんはそんな動物達を見て、オリバーはきっと、幸せになれる
と確信して、サマンサさんに御願いして帰って行ったんだ。
サマンサさんは片足オリバーが元気になるまで、薬を飲ませたり、献身的に面
倒をみてくれた。
所が、元気になったはずのオリバーは他のネコたちとどうも、シックリこない
ようだったんだ。
新参者だからなのか、何が原因なのか判らないのだけれど、オリバーはいつも、
他のネコ達から離れて、淋しそうにひっそりと隠れて暮らすようになっていた。
どうして良いのか判らないんだ。
それから、1ヵ月後、今度はペッパーという犬が引き取られて来た。
ペッパーはホーランド ドレンツという珍しい種類の大型犬だったのだけれど
、オーバーブリードの為、生まれながらの全盲だったんだ。
自分が目が見えないことに腹を立てていたのか、とても攻撃的だったので、ブ
リーダーに売り物にならないからと眠らされる所をこのサンクチュアリに連れ
てこられたんだ。
とても、アンハッピーな犬だった。サンクチュアリに来てからも、いつも、窓
際のクッションの上でフテ寝していて、やっぱり、他の犬達と混ざって行かな
いんだ。
その姿は本当に淋しそうで、自分の世界にドップリ漬かってしまっていた。
でも、そんなある日、サマンサさんは信じられない光景を目のあたりにしたん
だよ。
何と、ペッパーのクッションにオリバーがいたんだ。
初めは、ちょっと離れた所でペッパーを観察していたのだけれど、すぐに、ペ
ッパーの横で、体を押し付けて、一緒に眠るようになっていたんだ。
オリバーは野良犬かコヨーテに殺されそうになったから、犬には物凄い警戒心
を持っていたはずなのに、ペッパーとオリバーはまるで、大昔からの親友のよ
うになっていたんだ。
傷ついた心を持った者同士が通じ合って、判り合えたようだった。
それから、ペッパーからもオリバーからも暗さが消えて、幸せそうに寄り添っ
て暮らすようになったんだよ。
つづく(次号掲載は4月4日を予定しています)
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