僕とチチの記念写真
その7.
                                     
マミーとクリステーンさんは大の仲良しになった。
クリステーンさんの影響で市場でチキンを何キロも買って来て、圧力釜まで買
って、僕とチチのごはんを作ってくれるようになったんだ。勿論、大歓迎だ。
缶のクサイ肉なんかより、スープの入ったチキンのごはんは大好きだ。
この頃から、僕はどんなにお腹が空いていても、まずいものは食べない事にし
たんだ。ごはんの時、ちょっとふくれてみたら、マミーは大慌てで
「これ食べたくないの?」と言って、何かいいものと加えてくれる。
もう、食べたくないものや、美味しくないものは食べないぞ。
マミーとダデイは、僕はグルメ犬になって、ワガママな奴と呼んでいた。
でも、食べたくないものは食べたくない。

ある日の午後、散歩に出かけたんだ。
そうすると、いつもの公園にハッピーが見知らぬ若い男の人と来ていた。
マミーはドキドキしたみたいだった。誰だろう?見たことない人だなあと思っ
ていたら、マミーが「こんにちは!!もしかすると、貴方はクリステーンさん
の息子さんですか?」とその人に声を掛けたんだ。
「はい、息子のアンソニーです。貴方は、もしかすると、母の友達のサラさん
ですか」と答えた。マミーがドキドキした理由がその時判ったんだ。
その男の人は凄いハンサムだったから。
2人は僕らとハッピーを連れて、一緒に散歩した。
「今日は、クリステーンさんはどうしたの?」とマミーが聞くと、
「母はあんまり心臓が良くないですよ。今日は調子が良くないので、僕が犬の
散歩をしています」と言って笑ったんだ。
その笑顔でマミーはガーンとなってしまったみたいだった。
マミーは単純だから、僕にはすぐに判る。その晩、マミーは夕食の時に、
「ダデイ、今日クリステーンさんの息子さんに会ったのよ。凄い、ハンサムで
ムービースターみたいなの。初めて、香港であんなに凄いハンサムにお目にか
かったわ。ジョン ローンにソックリなのよ!」と興奮して話していたが、ダ
デイはむっとして面白くなさそうだった。僕は、馬鹿だなあ、話さなきゃいい
のに。と思ったけれど、マミーは何でもダデイに喋ってしまうらしい。
次の日、朝散歩に出かけると、クリステーンさんとリオが居た。
マミーが飛んでいって「オハヨウ!クリステーンさん。昨日、息子さんに会い
ましたよ。凄いハンサムなんでビックリした。私が香港で会った男の人の中で
一番ハンサム!」と言うと
「ありがとう。いい子なのよ。私の面倒を良く見てくれるし」
マミーは興奮してまた、聞いた。
「ねえ、ちょっと洋風の顔立ちはクリステーンさんがドイツとのハーフだから
よね」
すると、クリステーンさんは
「私ね、3回結婚しているの。アンソニーの上に娘がいるんだけど、アンソニ
ーとは違う父親なのよ。アンソニーが産まれた時に結婚していたのは中国人の
大金持ちの男だったの。大きな事業をやっていて、羽振りは良かったんだけど、
女癖が悪かった。私もミス香港になったりして、男にはもてたしプライドがと
んでもなく高かったから、女の事は許せなかった。台湾の歌手と浮気している
のを見つけて、頭に来てね、イギリス人のドクターと浮気して出来た子なのよ。
でも、凄くハンサムでしょう?だから、中国人の元夫は絶対に自分の息子と信
じているのよ。あんな不細工なブルドッグみたいな父親からアンソニーの様に
ハンサムな子供は絶対に出来ないわ。でも。今度、アンソニーが結婚するんだ
けど、沢山お金を使わせてやるんだ。これが私の復讐よ。それに、余りに人に
裏切られつづけたから、犬が可愛いのよ。犬は裏切らない。愛情に答えてくれ
るもの。私を必要としているもの。」と言って、笑った。マミーはウーンと唸
って
「さすが!凄いね、クリステーンさん。しかし、ハンサムだー」
とまだ、息子さんの事にこだわっていた。

マミーは犬を大切にして可愛がる人達に悪い人はいないという信念を持って、
犬友達の輪を広げて行ったんだ。

ある朝、ダデイと僕とチチが山を登って、走っていたら、中国人の凄く鍛えた
女の人が2匹の犬を連れて、ジョギングしていた。ハーイと挨拶はしたけど、
それから、何度も山で会うようになったんだ。で、ダデイとその女の人は話を
した。彼女の名前はソフィー。犬の名前はバウジャーとアーノルド。もちろん、
僕とチチは直ぐに友達なったんだ。でも、バウジャーとアーノルドはギャング
みたいなんだ。
バウジャーもアーノルドもミックスもミックス。チチよりも凄いんだ。
バウジャーは痩せていて、一見、のら犬みたいで、ウロウロしかたも、チンピ
ラみたいだ。周りの人達が怖がるのは当たり前だ。アーノルドはガッチリして
いて顔はボクサーみたいだけどパンチを受けて凹んだみたいな変な顔なんだ。
良く判らないけれど、イタリアのマフィアみたいだと後でマミーが言っていた。
でも、バウジャーもアーノルドもおとなしくでいい奴らなんだよ。

ダデイは「日中は妻がタマタマとチチの面倒を見ているから、きっとどこかで
会いますよ」と彼女に話したんだ。
それで、ある日、ショッピングに行くと、バウジャーとアーノルドとソフィー
さんとマミーは遭遇した。ソフィーさんが
「ハーイ、貴女がゴードンのワイフ?私はソフィー、良く山でゴードンと会う
のよ」と話し掛けて、一遍で友達になった。僕らが一緒だと人間はあんまり問
題なく友達になれるらしい。それから、ダデイが出張の時はマミーとソフィー
さんは一緒に僕らを山に連れて行ってくれるようになったんだ。
「ねえ、アーノルドもバージャーもブスでしょう。私はブスな個性的な犬が好
きなのよ。純血種のどれも同じ顔した犬には興味ないの。アーノルドも近くの
ビーチの野犬が生んだ子なんだけど誰かが拾ってきて、電話を掛けて来たの、
子犬いらないかって。丁度、やっぱり捨て犬だったバウジャーを引き取ったば
かりだから、いいか、もう一匹と思ったのよ。見に行ったら、この顔の小さい
のがピーピー泣いているのよ。もう、これだーって、即決ね。この不細工さが
たまらないの。可愛いでしょう?」
マミーは絶句していた。どうも、心の中では、世の中には変った人もいるもの
だと思ったらしい。

とにかく、チンピラ2匹組なんだ。悪さはしないけど、回りの人達は危険だと
思って、苦情を言ったりしていた。ソフィーさんは引き綱をつけない主義だと
かでバウジャーもアーノルドも放し飼い状態だった。僕はちゃんと学校でトレ
ーニングを受けていたから、引き綱なしでも、どこかに行ったりしないけど、
僕は彼らが何かしでかすんじゃないかとハラハラしていた。                  


つづく(次号掲載は11月23日を予定しています)         
ご感想をメールで