作者の紗羅さんです(?年前)

その6

こうして、毎日散歩していると、色々な犬や人に会うようになったんだ。
その次にマミーが知り合ったのがクリステーンさんというおばさんだった。
毎日、毎日クリステーンさんは僕たちと同じ時間に散歩に出掛ける。
でも、毎回違う犬を連れているんだ。
マミーとクリステーンさんは僕たちを連れて、一緒に散歩するようになった。
それで、色々な話が判ったんだ。クリステーンさんは63歳。でも、凄く綺麗
な人で昔はミス香港のフォトジェニックとかいうのに選ばれた事もあるんだっ
て。
中国人とドイツ人のハーフで、マミーはクリステーンさんは昔はエリザベス

テーラーとかいう女優さんに似ていただろうとダデイに話していた。
クリステーンさんはチャオさんと同じに捨てられたり、迷子になったりした犬
を助けて上げていた。だから、毎回違う犬と散歩していたのは、4匹の犬と一
緒に暮らしていたからなんだ。
1番はリオ。大きい犬でノシノシと歩くんだ。近所では王様だと言われていた
んだよ。色は僕と同じゴールド。やっぱり、色んなミックスだったから、中国
犬というのかな。
凄く太っていて、体が重そうだった。でも、チチはリオを王様と思っていたか
ら、会った途端に地面にゴロンとなってお腹を見せて、私は貴方のしもべです。
と表現する。
僕は、プリンスだから、そんな真似は絶対にしないけれど、リオはいい奴だか
ら大好きだった。
クリステーンさんはリオの話をしてくれた。
「リオは同じアパートの住人が引っ越す時に部屋に閉じ込められたまま置き去
りにされてたんですよ。その住人が私のポストに小さい紙切れを入れて、それ
には、犬が部屋に残っている。貴方が助けなければ、多分死ぬので、よろしく。
って書いてあった。私はその住人は知らないし、紙切れを見た時にはビックリ
して、すぐ、その部屋に行ったんですよ。そうしたら、何もないガランとした
部屋の中でリオはやせこけて、食べ物も水もなく体はボロボロだったです。3
日か4日はその部屋で誰かを待っていたんでしょう。ドアは鍵が掛かっていな
かった。部屋中にウンチはしてあるし、酷い状態でした。私を見た途端に気が
狂った様に咆えるんです。私も知らない犬だし、怖かったけれど、何とかしな
くちゃと食べ物と水を運んで、落ち着かせて、大丈夫、大丈夫、助けてあげるよ
と話し掛けると、不思議な事におとなしくなったです。で、部屋から連れ出し
て、直ぐに獣医さんの所に連れて行きました。そうしたら、獣医さんがあんた、
なんて扱いをこの犬にしたんだ! 酷い皮膚病には掛かっているし、脱水状態
も酷い。もう少しで、死んでしまうとこだったよ!と怒鳴ったんで私も負けず
にこれは私の犬じゃない。近所のばか者が部屋に閉じ込めていたのを助けてき
た所だーって怒鳴り返してやりましたよ。で、獣医さんはすみませんでした。
あんまり、酷い状態なので、つい感情的になってしまった。でも、危機一髪で
したよ。もうすこし、こんな状態だったら、この犬は死んでしまっていました
からね。と言ったんですよ。私は、運命を感じました。この犬の面倒は私が見
ようって。あれから、もう3年になります。今ではリオは私の命です。」
とリオを抱きしめた。マミーは話を聞きながらもらい泣きしていたけれど、僕
はこの王様みたいに威厳があって大きくて太ってかっこいいリオにそんな過去
があったとはビックリしたんだ。
クリステーンさんはリオの為に市場まで行って、新鮮な鳥や魚を買って来て毎
日料理してあげているんだって。本当に、リオはその時は王様だった。


2番目がハッピー。小さくて足が短い。でも、太っている。
これは全員、クリステーンさんの所の犬は太っている。
コロコロしていて、白い柔らかい毛に所々黒いスポットがある。
やっぱり、ミックスだから、自分のルーツは判らないらしい。
ハッピーは捨てられていたのをクリステーンさんが見つけて、クリステーンさ
んちの子になったんだって。年は僕たちよりずっと上だったみたいだ。
ハッピーの歯はボロボロで硬いものは噛めないと言っていた。
もう大人になってからに捨てられて、クリステーンさんのところに来て4年だ
から、10歳くらいかもう少し上か、良く判らないみたいだった。
でも、やさしくて、おとなしい犬だったから、チチは大好きになって、お姉さ
ん、お姉さんと呼んでいたんだよ。何故か、近所の悪犬達はハッピーを見ると
いじめに来ていたので、チチは直ぐに飛んでいって何すんだよ!と悪犬を蹴散
らした。
チチは小さいくせに正義の味方でハッピーを守ると決めたらしい。
チチはその頃から、凄いファイターでタフになってきていた。
その悪犬たちの中には僕とベンジーを賭けて戦ったマスチフ野郎もいたんだよ。


3番目はダルメシアンのジェシー。この犬は知り合ってすぐに、近所のオース
トラリア人の高校生に貰われて行ったので、僕は余り良く知らないんだ。

  
4番目はチャウチャウのラッキー。名前のラッキーはあんまり不幸だったので、
クリステーンさんがつけたらしい。このラッキーも近所の人が引越しの時に置
き去りにされたんだって。ラッキーは歩き方がおかしいんだ。フラフラして真
っ直ぐに歩けない。
マミーがクリステーンさんに「ラッキーはどうして、真っ直ぐあるけないんで
しょう?」と聞いたら、説明してくれたんだ。
ラッキーは近所の人が私を犬の引取やかなんかと思ったらしいんですよ。次々、
助けるから、いらなくなった犬はあいつの所に連れて行けば、何とかなると思
っているみたいなんですよ。この近所の人が引っ越すと決まってから、毎日、
毎日引き取ってくれと言ってきたけれど、私も若い訳じゃないし、4匹目は辛
いから、駄目だって断っていたんですよ。そうしたら、実は息子、といっても
30歳近くらしいんだけれど、ラッキーが大嫌いで毎日蹴飛ばすんだって言う
じゃありませんか。ラッキーは5歳だけど、1日5分位しか外に出さないので、
いつも、キッチンの隅でうずくまって暮らしていたらしいんですよ。息子を見
ると怯えるし、今度引越しする先にはラッキーは絶対に連れて行かないと決め
たから、私が引き取らなければ、動物愛護協会に連れて行くというじゃないで
すか。私も悩みました。体力的にも、4匹目は辛いし、私のアパートも大きい
わけじゃない。でも、犬の事を考えると、こんな不幸な事はないじゃないです
か。動物愛護協会で幸運にもいい引取り先が見つかればいいけれど、ラッキー
はヨボヨボだし、あそこには純血種の犬が沢山いるんですよ。だから、私が
NOと言えば、ラッキーは1週間も生きられないでしょう。悩んで、悩んで、近
所の人がラッキーを連れて動物愛護協会に行く日、丁度タクシーが来て乗り込
む所をつかまえて、私が引き取ったんです。引き取った時、近所の人は大喜び
して、ハートウオームの薬や身の回りのものを持ってきて、ちゃんと毎月の薬
も飲ませているし、元気な犬ですから、と言って行ったのだけど、後で色々な
事が判ったんですよ。1日1回しか外に出して貰えなかったから、腎臓病に掛
かっていたし、ほとんど散歩をさせてもらえなかったから、歩き方が判らない。
引き取って直ぐは10M歩くとへたり込んでいたんです。足が弱くて、体を支
えられない。だから、毎日、毎日少しづつ散歩の訓練をしてここまで歩けるよ
うになったんだけど、まだ、真っ直ぐ歩けません。仕方ないですよ、5年もキ
ッチンの隅にうずくまる生活していたんだから。だから、私はこの子にラッキ
ーって言う名前を付けたんです。せめて、私の所に来た事がラッキーな事にな
るように」


僕らはリオもハッピーもラッキーもクリステーンさんに会えて本当に幸せにな
ったんだ。と皆心の中で思っていた。もしかすると、神様が辛い目にあった彼
らにご褒美でクリステーンさんに巡り合わせてくれたんだなあ、とも感じてい
たんだよ。

                  
つづく(次号掲載は11月16日を予定しています)