その77.

今年は、中々温かくならない変な春だ。
マミーのお庭の花も1ヶ月くらいずれて咲いているので、もう終わってしまう
はずの花がいつまでも咲いていて、夏に咲く花が芽をだしたのに、重なってし
まって大変な事になってしまっている。
でも、毎日寒くて、1週間もピカピカドンの雷の嵐だったり、中々温かくなら
ないんだ。
だから、天気が良くて、温かい日にはマミーは朝から大ハッスルして家の大掃
除をするんだよ。
それに、中々温かくならないせいか、何が原因なのか判らないけれど、マミー
のアレルギーもいつもより、酷い。
ドクターにお尻にアレルギーの注射を打って貰ったらしいけれど、効かない、
効かないと文句を言っているし、困ったのは、夜だ。
鼻が詰まって、息が出来ないので、ゴーゴーとイビキをかく。
毎朝、ダデイが「あーあー、マミーがうるさくて、昨日は眠れなかった」
「えーー、ダデイのイビキは一年中で動物みたいにグオーグオーって凄いうる
さいのに、我慢しているのは、私の方よ」
「僕はイビキはかいていない。だって、聞こえないモンね」
と漫才のように、お互いのイビキの音の文句を言い合っているけれど、被害者
は僕とチチだよ。
あんまりうるさいと、チチとベッドルームから逃げ出して、一階のリビングに
避難するんだ。
だって、うるさくて、うるさくて眠れないんだ。

と、ある日、凄くお天気が良い日があった。
アレルギーの事もあったので、マミーは家中のものを洗濯する事に決めて、シ
ーツをひっぱがしたり、ブランケットを洗ったりと大忙しだ。
そして、僕とチチがいつも占領しているリビングのカウチの番になった。
冬の間は真っ黒なフェイクファーでカバーしてくれるから、ヌクヌクと暖かい
んだよ。
でも、もう春だし、僕とチチの毛が一杯ついているので、洗濯しようとはがし
たんだ。
「ゲーーーー」
マミーは凄い声を上げた。
「これも、これも、これもーーー」
黒いカバーの下には、チチの漏らしたシーシーが固まっていたんだ。
その下のカバーも、何と、クッションの下まで、まっ黄色!
そこで、マミーは
「これは、チチがここで何十回もオモラシした後だわ」
と独り言を言って、ドドドーと二階に上がると、チチのベッドのタオルケット
やカバーをはがすと、やっぱり、まっ黄色でゴワゴワに固まっていたんだ。

チチは香港でのフィックス手術が失敗で、膀胱の周りの筋肉を切られてしまっ
て、時々、リラックスすると、少しシーシーが漏れる事はあったけれど、こん
な大寝ションベンをしている事にはマミーは気が付かなかったんだ。
「あーあー、遂にチチはオシメをしなければ、いけないのね、年取ったのね、
バーちゃんになったのね」
と言って、引出しから、日本の100円ショップで買って来たピンクのチェッ
クのパンツをだして、オマタの所にパットを貼って、チチにはかせて、シッポ
の上でリボンを結んだ。
この日から、チチは家の中でオシメをはかされる事になったんだ。
そして、チチの事をこう呼んだ。
「寝ションベンたれ」

夜になり、ダデイが帰ってくると、チチのオシメ姿を見て
「どうしたんだ、どうしてダイパーしているんだ?」
「それがね、かくかく、しかじかで、チチがシーシーを漏らしていたのよ。
まー、わざとじゃないから、チチが悪いんじゃないけれど、オシメしないと、
アチコチに垂らすでしょ。だから、チチに寝ションベンタレっていう新しいニ
ックネームを付けたのよ」
こうして、ダデイの日本語のボキャブラリーは増えた。
でも、ダデイはチチの事を「寝ションベンタレじゃ、ナーイ」と呼んでいる。


つづく(次号掲載は5月30日を予定しています)