その76
前にも話したけれど、マミーはでっかいコーヒーカップを片手に、TVの前に
座り込んで、毎朝、モーニングニュースを1時間見ている。
ある日、「ちょっとー、ダデイ、見てみて、タマタマみたいな犬が大変な事に
なっている!」と叫んだ。
ダデイも僕もチチもビックリして、テレビの前に集合した。
テレビには、本当に僕にそっくりな犬が頭に穴があいて、アゴも半分無くなっ
ているのが映っていた。
マミーはヒーヒーと泣きながら、「かわいそうだ、かわいそうだ」と呪文のよ
うに唱えていた。
話は、こう言う事なんだ。
犬の名前なドーシャ。
家の裏庭で家族と遊んでいたんだけれど、その日、何を思ったのか、庭から逃
げ出してしまったんだって。その時に、首輪を落としてしまったんだよ。
僕が考えるに、きっと、外に面白い事がありそうだから、ちょっと、探検に行
こうかと思ったんじゃないかなあ。
とにかく、ドーシャは逃げ出して、勝って気まま歩き回って、国道に出てきち
ゃった。
そこで、道を横切ろうとしたら、横から大きなトラックが走ってきて、ドーシ
ャはドッカーンとはねられてしまったんだ。
何メートルも飛ばされて、道路に叩きつけられた。
トラックの運転者さんはすぐに警察に電話をして、犬をはねてしまったことを
通報したんだ。
その後、10分くらいして、パトカーが到着して、お巡りさんがドーシャを見
た。
ヒドイ怪我でもちろん、ドーシャは苦しんでいた。
そこで、お巡りさんは首輪もはめていないし、これは、野良犬だ。きっと、こ
の怪我では助からないだろう。
だったら、ここで、トドメをさしてあげようと、ピストルでドーシャの頭を撃
ったんだ。
お巡りさんは、今度は、ヒューマンソサエテイに電話を掛けて、実は、野良犬
がトラックにはねられてヒドイ怪我なので、可哀想だから殺しましたので、死
体の引き取りをして欲しいと言ったんだ。
ドーシャはお巡りさんに頭の後ろを撃たれて、弾がアゴに抜けたために、アゴ
に大きな穴があいていた。
その後、30分位して、ヒューマンソサエテイの人が死体を引き取りに来た。
ドーシャは黄色い死体を入れるボデイバッグに入れられて、処分場に連れてい
かれたけれど、処分するまでと言う事で、今度は死体保存用の冷凍庫に入れら
れたんだよ。
2時間後、係りの人が物音がするので、冷凍庫を開けて見ると、黄色いボデイ
バッグの中でドーシャがお座りして、ガリガリとバッグを開け様と引っかいて
いた!
皆、ドーシャは死んだと思っていたのに、冷凍庫の中で生き返ってしまっって、
ビックリ仰天だ。すぐに、獣医さんの所に担ぎ込み、手術をした。
トラックにはねられる、ピストルで頭は撃たれる、冷凍庫の中に2時間も入れ
られるという普通では考えられない程、過酷な状況だったので、獣医さんも助
けられるかどうか、一か八かの大勝負の手術だったんだって。
すぐにレントゲンを取ると、トラックに飛ばされた時の骨折、それに、お巡り
さんに撃たれた頭の傷が心配だった。
所が、頭の後ろから入った弾は耳のしたを通って、アゴに抜けたため、右の耳
はもう駄目だけれど、脳には全く傷が付いて居ない事が判ったんだよ。
凄い奴だ。ゾンビみたいだ。
すっかり、元気になって、朝のニュースに登場したという訳なんだ。
マミーは「引き取りたいけど、カリフォルニアだし、野良犬じゃないんだもの
ね。でも、運が悪いのか、いいのか、たった1日で死んだり、生き返ったり、
大変な経験をした犬なのね」
と言って、チーんと洟をかんだ。まだ、泣いていた。
これからは、ドーシャの頭を撃ったお巡りさんが問題になりそうだし、ドーシ
ャの医療費を助けようと、募金も始まり、ドーシャは一躍、アメリカで一番有
名な犬になっちゃったんだよ。
つづく(次号掲載は5月23日を予定しています)
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