その88.
トラック野郎は大きくて、ごつくて怖そうだけど、動物好きの人が多いんだ。
ジョーさんは奥さんと一緒にトラックの仕事でアメリカ全土を走り回っている。
ある日、アラバマで燃料を入れようと、トラックパークに入り、駐車した。
トラックから降りて、車体の点検をしていると、トラックの下から、ミューミ
ューというか細い声がする。
ジョーさんはビックリして、下を覗くと、子猫がデイーゼルオイルにまみれて、
ドロドロになって震えていた。
思わず、ジョーさんは「どうしたんでちゅか?こんなにドロドロでちゅね」と
抱き上げると、トイレのシンクで石鹸で洗って、タオルに包んで、トラックに
連れて行ったんだ。
奥さんはすっかり、眠っていたので、横に置くと
「ヒャー」とビックリしたけれど、思わぬ可愛いプレゼントに大喜びした。
二人とも、ネコが大好きだったんだ。
二人は、このまま、この子猫をトラックの中で飼う事にしたんだよ。
名前をデイーゼルとつけたんだ。
デイーゼルはすっかり、トラックネコになり、トラック仲間の間でも有名にな
って行った。
それから、何年かして、ジョーさんと奥さんはバケーションに行く事にした。
勿論、デイーゼルも一緒だよ。
アリゾナに行く事にして、この時はトラックではなくて、普通の車で出かけて
行ったんだ。
その日、止まるはずのモーテルについて、車を止めると、何を思ったのか、デ
イーゼルが車から飛び降りて、そのまま、森の中に入ってしまったんだ。
それから、ジョーさんと奥さんは、デイーゼルの名前を呼びながら、その辺一
帯を探し回ったけれど、デイーゼルは見つからなかった。
二人のバケーションは台無しになり、二人は諦めて、帰る事にした。
トラック野郎のジョーさんは、子供を無くしたようにガッカリとしてしまい、
落ち込んでしまったんだ。
それからも、無線で、仲間にトラックネコのデイーゼルが行方不明になったの
で、見つけたら知らせて欲しいと伝えたけれど、全く、ニュースは無かった。
ジョーさんはもう、デイーゼルとは二度と会えないだろうと、トラックの中の
オモチャも片付けてしまったんだ。
所が、その頃から奥さんは、毎日、毎日同じ夢を見るようになっていた。
モーテルのネオンサイン、空室のサイン、紺色のユニフォームで胸に名前が書
いてある。
奥さんはジョーさんに、こんなにはっきりした同じ夢を、毎晩、毎晩、はんこ
で押したように見るのは絶対に変だから、もう一度、アリゾナに行って、デイ
ーゼルが居なくなった場所を探してみようよと提案したんだ。きっと、自分が
夢で見たような場所があるはずだって、ジョーさんを説得したんだ。
ジョーさんも自分がデイーゼルが居なくなった為に気持ちが落ち込んでしまい、
もし、探し出せるのなら、何でもやろうと思っていたので、二人はアリゾナに
出かけて行ったんだ。
町に着くと、コーヒーショップやコンビニエンスストアーで町の人たちに、白
とグレーのネコを見かけなかったか?と聞いて廻ったけれど、誰も、知らなか
ったんだよ。
その内に、日も暮れてきて、車を走らせていると、窓からモーテルのサインが
見えたんだ。
奥さんは夢で見たモーテルのサインと同じなのに気がついたんだ。
「ジョー、車を止めて、あの、モーテルのサイン、私が夢で見たのと同じなの
よ、あそこに、行ってみましょう、手がかりがあるかもしれないわ」
すぐに、モーテルの事務所の前に車を止めて、中に入ると、そこには女性の受
け付けが居たんだ。
何と、その女性は紺のユニフォームを着ていて、胸に名前が書いてある。
奥さんは、ここだ!夢で見たのは、ここだ!ってすぐに気がついた。
もう、興奮してしまい、声が震えてしまったんだ。
「す、すいませんが、実は3週間前、この辺りでネコが行方不明になってしま
って、探しているのですが、知りませんか?」
「あー、あの白とグレーのネコですよね」
「そうです、そうです」
女性は、奥から大きなダンボール箱を抱えて来るとカウンターの上に置いたん
だ。
箱のふたを開けると、そこにはデイーゼルが入っていた。
「デイーゼル、探したのよー」
女性の話によると、デイーゼルは大きな木の上で8日間も過ごし、町の人が木
を登って、やっと、デイーゼルを降ろしたというんだ。
奥さんは、デイーゼルが迎えに来て欲しいと、シグナルを送って、それで、夢
を見たのだと信じている。ジョーさんもデイーゼルが無事だったので、男泣き
してしまったんだって。良かったね。
つづく(次号掲載は8月22日を予定しています)
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