チチの初めての女の印の時
マミーのパンツをはかされた恥ずかしいチチ

その10.

チチは生後10ヶ月になっていた。なんと、初めてのしるしが来たんだ。マミ
ーはチチは大人の女犬の仲間入りしたんだと言った。でも、チチは何だか、H
な匂いがする。
外に出ると、他の男の犬達がワイワイと寄って来るんだ。
僕はもう男の子じゃなくなっていたけれど、チチの事が心配だった。

マミーは自分が若い時にはいていた真っ赤なレースのビラビラしたスキャンテ
イやアニマルプリントの小さいビキニでチチのオシメみたいなパンツを作った。
チチは歩き辛いし、恥ずかしいと嫌がったけれど、マミーはチチを可愛い、可
愛いと言って褒めちぎった。だから、チチはマミーが誉めるんだからと我慢し
て変なパンツをはいていたんだ。うちでは、マミーが言う事は絶対だからね。
チチは獣医さんに連れていかれた。獣医さんは「手術は1歳になるまで待った
方がいいでしょう。余り、早くすると、自分が女なのか男なのか判らなくなっ
てしまうんですよ。これは、年に二回来ます。次に来た時に手術をしましょう」
といったんだ。何と、チチは27日間もマミーの変なパンツをはかされて、マ
ミーは散歩の度に他の男の犬が近づかないようにと、ピリピリしていた。
それは、もしかして、レイプされたら、どうしようと考えていたみたいなんだ。
それに、チチみたいな不細工な犬が生まれたら、貰い手も見つからないだろう
し、と色々と変な事を心配していた。

その内にアパートの二階の住人との僕たちを巡ってのトラブルもあって、マミ
ーは一大決心をして、ダデイを説得し、引っ越す事にしたんだ。
この住んでいたアパートは建って8年なのに、外壁のタイルはボロボロだし、
5階建ての2階に住んでいたのに、雨もり(?)はする。
台風が来ると、窓のサッシから水が洪水のように部屋に入ってくる、壁からも
水が噴出す。マミーが一番嫌いだったのが、水がまっ茶色だった事なんだ。
お風呂に入ろうと水をためるとコーヒーみたいな泥水なんだ。
パイプがみんな腐って綺麗な水は出ないんだ。ひどい造りなのに、家賃はアメ
リカのお金で3500ドルもすると、怒っていた。
その上、上の住人が僕とチチを大嫌いときた。
マミーは絶対に、次は新築だ!と毎日、不動産屋さんと出歩くようになった。

執念というのかなあ。マミーはすぐに新築のアパートを探して来たんだ。
丁度、1ヵ月後に移れるアパートでフェリーポートのすぐ横。
ラ コスタというしゃれた名前だ。ちょっとアップマーケット狙いのレンガつ
くりで部屋は海に面していた。南仏風と呼ぶらしい。ダデイの乗ったフェリー
も見えるから、見えてからお迎えに行っても間に合うしとマミーは即決した。
家賃は同じだけど、部屋のサイズは半分になった。

こうして、僕らは新しい部屋に移ったんだ。5階建ての2階。
マミーは買い物は便利だし、建物は綺麗だし、一番嬉しがったのが、お風呂の
水がクリアーだった事なんだ。 リビングルームにバルコニーがついていたけ
れど、前のアパートの10分の1位。80cm四方というサイズなんだって。
ダデイは「これはバルコニーというより、シーシー場だ。いつか、下を歩いて
いる人にシーシーを引っ掛けてやるぞ」と悪い冗談を言った。
そこは、僕とチチの場所になったんだよ。マミーがクッションを敷いてくれた
ので、僕とチチは頭をフェンスから出して、寝転がり、毎日下を通る人達や犬
達の観察をした。面白いんだ。ちっともあきないよ。

フェリーポートの前はプラザになっていて、コーヒースタンドもあるし、レス
トランや商店街もある。町でたった一軒だけのスーパーマーケットもある。
この頃から、マミーはモノグサになって、散歩とショッピングを一緒に済ませ
るようになったんだ。仕事も忙しかったのかもしれないけれど、毎日散歩以外
の時は机に向かって、コンピューターで書類を作っていた。
プラザに買い物に行くと、よくチャオさんが僕のベートーベン父さんとモクワ
イ母さんを連れて、ベンチの座ってコーヒーを飲んでいた。
マミーは余り会いたくなさそうだったんだ。
それは、僕の名前をつけた時にチャオさんとマミーがもめた所から、始まって
いるんだ。マミーは僕を引き取った後にチャオさんに僕の名前は「TamaTama」
にしたと報告をしたんだ。そうしたら、チャオさんが「何て、ひどい名前なの。
絶対に駄目」と激しく抵抗したんだ。
で、マミーがどうして?と聞くとチャオさんが「中国の私の地方ではターマー
というのは、悪い名前です。馬鹿野郎という意味ですから」と言った。マミー
は怒って「この名前は日本語です。私は中国人じゃないから、関係ありません」
とガンと言ったらしい。ただ、胸を張って言った割にはチャオさんに意味は教え
なかったみたいだけど。その後も、チャオさんは僕を見ると、周りの人達に
「この犬は私の犬だった」と言って回るんだ。
で、マミーはレッドポケットをあげた時点でもう、私の子だから、いつまでも
あれこれ言われたくない!とチャオさんの近くに行きたくなさそうだった。
それに、ベートーベン父さんもモクワイ母さんも僕の事をすっかり忘れてしま
っていて、久しぶりに会った時に、お父さん、お母さんと声を掛けたら、お父
さんに噛まれそうになったんだ。お前なんか、知らない!って。
僕はちゃんと覚えていたよ。お父さんとお母さんの事。
それから、マミーはレッドポケットの事も後でクリステーンさんに聞いて、ど
うすれば良いのか理解したんだ。犬を貰う事にレッドポケットを上げる風習と
いうのは基本的にはない。でも、縁起ものだから、あげても良い。大体、アメ
リカのお金で3ドル位入れればそれで、良かったんだって。マミーは知らずに
アメリカのお金で50ウを入れたんだ。だから、僕は50ドルの犬なんだ。
そういえば、僕がマミーに貰われた時にチャオさんはレッドポケットの中身を
見て、喜んでいたなあ。
マミーはチャオさんは僕の事を特別に思っていたから、会うたびにあれこれと
言いたくなるんだろうと思っていたみたいだ。
で、ある日、コーヒースタンドの前でチャオさんに会ったので、マミーは
「タマタマの兄弟はどうしているの?」と聞いたら
「全員、行方が判らないんです。2匹は九龍に行ったし、後の3匹はここに居
るはずなんですけど、一度も見かけないんですよ」
そうか、そう言えば、僕らは1日4回も散歩しているのに、僕の兄さん、姉さ
んには一度も会った事が無かった。
それで、チャオさんは僕X6匹分で、気になってお節介していたんだなあ。
                                         

つづく(次号掲載は12月14日を予定しています)

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