僕とチチのベランダ観察

その11.


ソフィーさんとバウジャー、アーノルドとも良く会う様になったんだ。
僕らは4匹でプラザギャングみたいだった。
僕もバウジャーみたいにクールになりたかったんだ。
そうして、覚えたのがハンテングだった。
バウジャーとアーノルドと一緒に山に行って、他の野生動物を追いかけるんだ。
まず、初めに覚えたのが、野生の牛を動かす事。山には沢山の牛がいたんだよ。
皆ノンビリと昼寝したり、寝転がっていたりしている。そこに突っ込んで行っ
て、ガウガウ咆えまくって、大きな、大きな真っ黒い牛を動かすんだ。
うるさい奴だなあと野牛は面倒そうにゆっくりと立ち上がって、他の所に移動
する。
僕の30倍くらいある大きい奴を移動させると、僕は自分が凄く強い男になっ
た気がするんだ。それに、家では絶対に咆えたり、唸ったり出来ないから、山
でガウガウ大きな声を出すと、ストレス発散になるんだ。
チチも負けていないよ。チチは寝ている野牛の鼻図らでワンワンと咆えるんだ。
それに、チチは僕の半分のサイズだから、野牛は60倍もの大きさなんだよ。
それに、チチは体が小さいから、声もキャンキャンとなってしまうので、僕や
バウジャーやアーノルドみたいな声になりたかったんだ。だから、一生懸命、
僕らの声の真似をして低い声で、ガウガウとやるんだけれど、やっぱり女の子
だから、おかしな声になっちゃうんだ。
その次は、ウサギ。野ウサギを追いかけたり、巣穴を見つけて、皆で掘り返し
たりした。僕たちは面白くて、面白くて止められなかった。向こうには大迷惑
だと思うけど。
そのうちに、僕もチチも本能とかいうものが出てきて、ハンテングの名人にな
って行ったんだ。チチは凄くすばやくて、鳥だって平気で捕まえるし、へびで
もトカゲでも平気なんだ。飛んでいる虫もパッとジャンプしてつかまえる。凄
い奴なんだ。
チチのハンテングの力には僕もバウジャーもアーノルドも脱帽だった。
僕は虫は怖いし、ブンブンと飛んでるのは大嫌い。
へびなんか初めて見た時は飛び上がってビックリしたよ。
でも、一番嫌いなのは雷だ。ゴロゴロ、ピカピカと始まると怖くて、怖くてブ
ルブル震えてしまう。あんなに怖いものは無いよ。でも、チチは平気な顔して
いる。
チチは野生で生まれたから、雷なんか怖がっていたら生きて行けなかったんだ
って。そう言えば、チチと初めてあった日も台風が直撃の大嵐の日だったなあ。
雷が鳴り始まるとバスルームの中に隠れたり、夜寝ている時はベッドの中でダ
デイとマミーの間に入ってマミーのわきの下に顔を埋めるんだ。
そうすると、マミーが僕の耳を手でふさいでくれて、「大丈夫、大丈夫」と呪
文を唱えてくれるんだ。
ダデイもマミーも僕の事をチキン ボーイ、弱虫と呼ぶけど、雷だけは何十回
経験しても、怖いんだ。でも、チチはそんな凄い雷の夜でも平気な顔して自分
のベッドでいびきをかいてグーグー寝ているよ。たいした奴だよ。チチは!
小さいバルコニーで1日中下を通る人や犬達を見ていたら、ある日、ギョッと
する事があったんだ。なんと、あのマスチフの奴が下を通って、僕に向かって
「また、会ったな。」と咆えて来たんだ。「何で、お前がここに居るんだ
よ!」「住んでんだ。悪いか」と言って来た。見ていると、マスチフは隣のア
パートに入って行く。
えー、また近所にアイツがいるのか!僕を追いかけてきたんだろうか??
それに、仲間を連れている。白い短い毛にポツポツと黒い斑点だ。
ボクサーとブルッドクみたいなミックスで目の回りが黒い。目つきが悪い奴だ。
きっと、性格が悪いんだとピンと来たよ。
やっぱり、性格の悪い奴の相棒は性格が悪いんだ。

ある日、散歩の最中にまたマスチフの奴と出合ったんだ。
僕はいつでも喧嘩を買ってやる準備をしていたけれど、マスチフの奴は僕に一
度喧嘩で負けているから、関心がなさそうに、そっぽを向いていた。
マスチフとあの目つきの悪い奴を連れていたのはフィリッピン人のメイドさん
だった。
マミーは「ハーイ、何時引っ越してきたの。このマスチフと前もご近所だった
のよ」
「はい、先週引っ越して来ました」「飼い主のメイさん、最近見かけないけれ
ど。前はメイさんが散歩していたんじゃない?」と聞いた。すると、「メイさ
んは子供が生まれるので、ここには、居ないんです。ここは犬達と私だけが住
んでいます」「そうなの。所で、この白い方は新しい犬よね」
「ハイ、メイさんがキングが淋しいからと飼ったんです。この子は女の子でパ
ンダと言います」 えー、あのマスチフの名前はキングだったんだ。初めて知
ったよ。
それに、この目つきの悪い奴、女の子?? 態度悪いし、そうか、目の回りが
真っ黒だから、パンダって名前だったんだ!と僕は思った。
チチも僕に、この犬達は生理的に受け付けないと言って、僕らは絶対に友達に
はなれないと確信したんだ。
それに、キングとパンダと僕とチチの間に宿命としか思えない事件が待ってい
たんだ。もちろん、僕もチチも全く想像のつかなかった事件が。
                                               
つづく(次号掲載は12月21日を予定しています)