僕とチチとブラウニー
ブラウニー

その18.

引っ越して、間もなく香港は中国に返還された。
そうしたら、近所のイギリス人の人達が、どんどん引っ越してイギリスに帰っ
て行ってしまったんだ。
だから、新しく友達になった犬達もどんどんと居なくなって行ったんだ。
中には、置いて行かれてしまい、次の引き取り先が見つからなくって、動物愛
護協会に連れて行かれた犬も沢山いたんだ。
それは、マミーがイギリスの友達から聞いた話に寄ると、外から病気を持ち込
ませない様に、僕ら犬達は6ヶ月間検疫というのを受けるんだって。
1日、幾らとお金を払わなければならないし、2日に一度、犬達に会いに行か
なければならないというルールがあるんだそうだ。
だから、6ヶ月も僕たちが検疫を受けると言う事は凄い金額になるし、中には、
お父さんやお母さんに捨てられたと思って、心の病気に掛かってしまう犬もい
るんだって。
年取った犬は、中で死んでしまう事もあるらしいんだ。
だから、香港からイギリスまでの飛行機代に検疫6ヶ月の費用を払えない人は
泣く泣く、僕ら犬達を置いて行くんだそうなんだ。

その内に、経済が悪くなり、ダデイの勤めていたイギリスの会社がアメリカの
会社に買われてしまい、アメリカの会社は香港でオフィスを持っているのは高
すぎると、オフィスを閉鎖する事になった。
ダデイは香港で新しい仕事を探したけれど、回りのアメリカの会社もどんどん
とオフィスを閉鎖し始めていたんだ。
だから、ダデイの友達も毎週のように、香港から去って行ったんだ。

マミーは「このまま、香港で仕事を探してもこの不景気では、難しいから、ア
メリカに行っていらっしいよ」と提案し、ダデイは故郷のシカゴに仕事探しに
行ったんだよ。

初めは、2週間の予定だったけれど、中々タイミングが合わなくて、3週間、
4週間と伸びって行った。
その間、僕らは毎朝、ソフィーさんと待ち合わせて、ギャング4匹組で山に登
った。
マミーは、初めはヒーヒー言っていたけれど、ソフィーさんに鍛えられて、毎
朝の山登りが大好きになって行った。

ジョージとチチは時々しか会えなくなってしまったんだ。
夜、リンデルさんが電話してくれて、ビーチで待ち合わせて、遊ぶか、時々、
ジョージを連れて、丘を登って会いに来てくれるか、前の様にいつでも会える
という事は無くなってしまったんだ。
チチは淋しそうだったけれど、時々会うジョージは益々わがままで、困った奴
になっていたんだ。
相変わらずのハンサムだったから、回りの女の子にもてて、自分を好きになら
ない女はいないぜって顔をするんだよ。
ある日、リンデルさんから電話があり、ランチに呼ばれて行ったんだ。

ジョージの所には、凄く沢山の特別なおやつがある。
例えば、ブタの耳。バリバリ噛むと美味しいんだ。
でも、高いので、マミーはアメリカに行った時にお土産で買って来てくれるけ
れど、香港では買わないんだ。
だから、僕たちにとっては、クリスマスのシーズンだけのおやつなんだよ。
でも、ジョージの所には、山の様に、このおいしいブタの耳があるから、遊び
に行くのが楽しみなんだ。前は、ジョージは僕とチチにもおやつを分けてくれ
たのに、この時から、ジョージはケチになった。
リンデルさんが1個ずつ、喧嘩しないように、とブタの耳をくれたのに、ジョ
ージは3個とも自分の物だと体の下に隠してしまって、僕たちにはくれない。
リンデルさんが「ジョージ、どうして全部取っちゃうの? お友達でしょう、
おやつを分けてあげなさい」と言ってもフンとそっぽを向いて聞かないし、チ
チがジョージのオモチャを見つけて、ちょっとでも遊ぼうとすると、横から来
て、さっと持って行ってしまい、自分のクッションの周りにおいて、絶対に触
らせないんだ。
僕は、ジョージは嫌な奴になったなあ。と思った。
チチも、あんなに大好きだったのに、この頃から、白けて来たらしい。

ある日、ブラウニーのお母さんのスージーさんがたずねて来て、
「私、赤ちゃんが出来たんです。それで、韓国の実家に2週間位帰ります。で、
ブラウニーの事なんですけれど、預かってもらえませんか?」
と言ったんだ。マミーはブラウニーが好きだったので、
「いいわよ。私も家で仕事しているから、ブラウニーを預かってあげるわ」
と一つ返事でOKしたんだ。

次の週、ブラウニーがうちに来た。
僕とチチはペアだから、そこにブラウニーは入れない。
マミーはブラウニーのクッションをベッドルームの前の廊下に置いたんだ。
でも、僕らはブラウニーを絶対にベッドルームには入れない。
よそ者は、ここから入っちゃ駄目だ!って、僕とチチはルールを作ったんだ。
初めの3日間は僕もチチもブラウニーをちょっとだけ泊めたあげているつもり
だったんだ。だから、僕とチチは遊ぶけれど、ブラウニーは仲間には入れない。
マミーはブラウニーが可哀想だからとトレーニングを始めたんだ。
ブラウニーはハイパーでヤンチャだけど、頭は悪くない。
だから、毎日、マミーにトレーニングしてもらうと、見違える様にいい子にな
って行ったんだ。よく、話を聞くし、お座りも待ても直ぐに覚えたんだ。
それに、僕とチチの事を見て、一生懸命、覚えようとしたんだよ。
ワンワン咆えていたのも、僕たちは咆えないし、静かにしろと僕が教えたから、
咆えなくなった。マミーは「ブラウニーはいい犬だわ。残念なのはスージーが
トレーニングしてあげられない事ねえ。家の子になったら、色々教えられるん
だけれど。それに、赤ちゃんが生まれたら益々ブラウニーにかまってあげられ
なくなるじゃない、どうするんだろう」と思っていた。

1週間がたった。僕は3日位でブラウニーは帰って行くと思っていたから、1
週間も家にいると言う事はうちの子になったのかなあ。弟が増えたのかなあと
考えたんだ。
そうしたら、やっぱり、ブラウニーと遊んであげなくちゃいけないよな。
僕はお兄ちゃんだから。
で、ブラウニーを受け入れる事にしたんだ。初めは嫌いだったブラウニーのハ
イパーな所も男同士の激しい遊び方にはなかなか、良いと判ったんだ。
それで、僕とブラウニーは家の中でも、外の広場でも、駆け回って、遊んだん
だ。
ブラウニーも今まではスージーさんに連れられて家の回りをブラブラするだけ
で、運動らしい、運動はさせてもらえていなかったから、毎朝1時間の山登り
や1日4回の散歩で僕と空き地を駆け巡ったりして、エネルギーの発散が出来
て、大満足だった。
だから、余計なエネルギーをうちの中で出さないから、益々、おとなしくなり、
マミーの言う事もよう聞くいい子になっていったんだ。
もちろん、マミーもブラウニーが大好きになっていったんだよ。
でも、困った事が起きたんだ。
それは、チチだった。
チチは僕がブラウニーを受け入れた時から、ひどく落ち込んでしまったんだ。
ガックリと部屋の隅で、うずくまって、僕たちが遊んでいるのをじーっと見て
いるだけ。
ごはんも食べなくなった。段々、元気が無くなって行ったんだ。
ウツになってしまっていた。
マミーは「チチはタマちゃんをブラウニーに取られたと思って落ち込んでいる
のね。そうか、三角関係は難しいね。このまま、ブラウニーをうちに置いてお
くと、チチは病気になってしまうから、スージーさんが来たら、ブラウニーを
連れて帰ってもらおうね」といった。
本当はブラウニーを引き取ってもいいと考えていたらしいんだけど、チチがあ
んまり、急激に落ち込んでしまったのを見て、やっぱり、3匹目は駄目だと思
ったらしい。

2週間がたち、スージーさんが帰って来た。ブラウニーは自分の家に帰り、チ
チは直ぐに元気になったんだ。現金な奴だ。

その後、外でブラウニーに会うと、ブラウニーは僕らの後を追って来て、一緒
に僕のうちに帰りたいと建物の玄関の中まで入って来た。
よっぽど、僕らと一緒にいたのが楽しかったんだろうなあ。
でも、あんなにマミーにトレーニングされていい子になったはずのブラウニー
は3日でもとのコントロールのきかないハイパーなヤンチャ坊主に戻り、スー
ジーさんは毎日、ブラウニーの事を文句言っていたんだ。
                                   
つづ
(次号掲載は2月8日を予定しています)