その19.

ダデイは2日に一度、アメリカから電話を掛けて来た。僕たちの事が心配だっ
たんだ。
「ハイ、皆元気にしているかい?ところで、僕の弟のデックなんだけど、実は
今日病院での放射線治療に行ったら、移植する肝臓が見つかったからって、直
ぐ手術する事になったんだけれど、大丈夫だよね」
「大丈夫!手術は成功するわよ」

ダデイの4歳年下の弟のデックさんは2年前に肝臓ガンになって手術したんだ。
でも、最近の検査で残った肝臓にポツポツと白い斑点が出てきて、もしかする
とガンが再発したかもしれなかったんだ。
お医者さんは後は、肝臓移植しかない!と言っていて、ずっとドナーを探して
いたんだ。
でも、先週、ドナーが見つかって電話が来たんだけれど、デックさんは出かけ
ていて、連絡がとれなかった。
だから、その肝臓は次の順番を待っている人の所に行ってしまったんだ。
皆がっかりしていたんだけれど、次の週に定期的な放射線治療にダデイが付き
添って行ったら、お医者さんが「また、移植の肝臓が見つかったので、直ぐに
手術しましょう」とそのまま、手術する事になったんだ。
2回目の肝臓は子供に移植するので、残りをデックさんにくれたんだって。
ダデイは、凄いテクノロジーだとビックリしたと言っていたよ。

マミーは「ダデイが2週間で帰ってきてしまったら、デックの手術の時は側に
いて上げられなかったんだから、ズルズルと滞在が伸びたのも、この為だった
んだね。しかし、2つも適合する肝臓が出て移植してもらえるなんて、奇跡だ
ね。」と言った。
ダデイのお母さん、つまり僕にとってはおばあちゃんもデックさんの奥さんの
デビーさんも子供達も皆、ダデイが側にいてくれて、本当に心強かったんだ。
その後、ダデイは帰って来た。昔勤めていた会社でのお仕事が見つかった。
でも、香港の仕事じゃなかった。シカゴの仕事だったんだ。
「よーし、ダデイ、アメリカに引越ししよう! 来年とさ来年はダデイは動い
てはいけない年だから、今年中に引越し。それも、新しいエアポートがオープ
ンする前!」とマミーの鶴の一声っていうので、たちまち、決定したんだ。

マミーは新しいエアポートは絶対に初めの頃は問題が出るから、僕たちが檻に
入れられて、滑走路に置き去りになんてされたら、大変だと心配したんだよ。
古いエアポートなら、過去に何百匹も飛行機で運ばれたから、エアポートの人
達も良く知って居る筈だと考えたらしい。
その頃、近所にカナダから引っ越して来たカップルがいて、旦那さんのマーク
さんはエアラインのパイロットだったんだ。
奥さんのマギーさんと犬の幼稚園パーテイで知り合い、プラックリトリバーの
ジョイをカナダから連れて来た時の話を聞いて、益々、心配になったらしい。
飛行機の都合で、マギーさんとジョイは同じフライトには乗れなかったんだ。
ジョイは後の便に乗って、バンクーバーを出た。
マギーさんとマークさんは先に香港に着いて、エアポートでジョイの事を待っ
ていたんだ。 
 ところが、待っても、待ってもジョイが出て来ないんだ。
そのエアラインはマークさんが勤めているエアラインだったから、どうしたの
か、大騒ぎになったんだ。なんと、乗り継ぎの時、他の飛行機に乗せられてし
まい、どこかに行方不明になってしまったんだ。マギーさんもマークさんも心
配で心配でいてもたっても居られなかった。
ジョイはバンクーバーから、20時間位掛かって、香港に着くはずが、どこか
のエアポートに間違って届いているのだから、食事も水もないし、トイレにも
行けない。

それから、24時間後にやっと、ジョイが香港のエアポートに着いた。
マギーさんはジョイはラッキーだったのが、マークさんの勤めているエアライ
ンだったから、早く探せた事と間違って届いたエアポートで犬好きの人がジョ
イの世話をしてくれて、外に出したり、食事や水を与えてくれた事だったんだ
って。
マミーはその話を聞いて、もしそんな事が僕たちに起きたら、シカゴのエアポ
ートで半狂乱になりそうだと思った。
マギーさんのアドバイスは絶対に同じ便で出発する事だった。
自分の持っている荷物のオーバーウェイトと大荷物という事で僕とチチの檻を
運んでもらうのが一番安全だというアドバイスだった。
それから、犬にトランキライザーを飲ませて、おとなしくさせるという話もあ
るが、それも、犬の性格次第でパニックになりやすい犬は飲ませた方が良いが、
僕やチチのようにおとなしい犬は飲ませない方が良い。それはカーゴエリアは
冷蔵庫のように寒いから、自分で体の温度の調節ができるように、薬は飲ませ
ない方が良い。というアドバイスもしてくれた。
マミーは荷物なんか無くなっても構わないが、僕たちが無事にシカゴに届けら
れるか、それが一番心配だったんだ。

6月末に出発する事を決定したんだ。それから、2ヶ月間、準備の毎日になっ
た。
マミーはアメリカ大使館にグリーンカードの申請をした。
結婚して6年なのに、審査が厳しいらしい。
マミーは過去に6ヶ月以上滞在した国々から犯罪を犯していないと言う証明書
を取らなくちゃならなかった。それに、1ヶ月以上掛かり、ダデイはお金を持
っているという証明を取らなければならなかった。僕たちは色々な予防注射を
して、健康診断をして、病気のない元気な犬だという証明を取らなくちゃなら
なかった。僕は生まれてから4回目の引越しになるんだけれど、まさか、こん
なに大変な事になるなんて、考えても見なかったんだ。

マミーは家中のものを整理始めた。大きな家具は売り払い、小さいものはガレ
ージセールして、お金を作ったんだ。これは、僕とチチの飛行機代だった。
部屋の中が段々空っぽになって行く。
何か、変だなー、いつもの引越しとは、全然違うぞと思っていたけれど、何が
何だか判らない。
そのうちにマミーは呪文のように「タマちゃんとチチは飛行機に乗るんだよ。
アメリカに行くんだよ」といい始めた。
飛行機? いつもマミーがトランクを持って出かけるときに乗る物??
えー、僕たちも遂に、飛行機に乗るんだ!!
でも、それが、あんなに苦しい、長い旅だとは思いもつかなかったよ。
                    
Tama Tama物語 香港編  終わり。
                                   
アメリカ編へつづく(次号掲載は2月15日を予定しています)