その44.

ダデイのもう一人の親友は、高校、大学と一緒に行ったケニーさんだ。奥さん
はエリザベスさん。
エリザベスさんはコロンビアのお金持ちのお嬢さんで国連で働いていたんだ。
仕事でコロンビアに行ったケニーさんと大恋愛して、結婚してアメリカに来た。
25年前なんだって。金髪の凄い美人で僕のマミーと同じ年だ。
息子さんと娘さんがいるけれど、息子さんは結婚しているし、娘さんはNYの
大学に行っている。
やっぱり、ケニーさんとエリザベスさんにもコンパニオンの黒いラブラドール
のルビーがいた。

ある日、エリザベスさんはルビーのお腹が大きくなっているのに、気がついた
んだ。
お腹はどんどん大きくなり、ルビーは6匹の子犬を産んだ。
どうみても、隣りのジャーマンシェパードのボボがお父さんだと思われる子犬、

三軒先のハスキーのドンがお父さんだと思われる子犬。6匹ともみんな色も顔
も違うんだって。
一体何時ルビーが近所のカサノバ達と恋をしていたのか、エリザベスさんとケ
ニスさんは首をひねってしまったんだ。

でも、考えてみれば、ケニスさんはGMのエグゼクテブで毎日、出張だ会議だ
と忙しいし、エリザベスさんも子供達が家から離れてから不動産の仕事やイン
テリアデコレーターの仕事をしていて、忙しい。ルビーは昼間は家に一匹でい
て、ルビー用のドアもあるから、外に出るのは自由なんだ。
だから、毎日、お昼間はルビーのデイトや恋の時間だったんだって。

さて、困ったのはエリザベスさんだ。6匹も子犬がいても、面倒は見れない。
お隣りに行って、この子犬はボボがお父さんだから引き取って、とも言えない
し、誰か犬の欲しい人を探そう。

近所の人達や友達が5匹の子犬は貰ってくれた。
でも、最後に真っ黒なルビーそっくりの子犬が残ってしまったんだ。
ケニスさんが会社に行って、最後の子犬の貰い手を探していた所、秘書のジェ
ーンさんが知り合いが犬を病気で亡くしたので、子犬を欲しがっている。と情
報をくれた。
さっそく、ケニスさんは子犬を欲しがっているロバートさんに電話をして、子
犬の事を話すと、是非、下さいと一つ返事で決まった。
ただ、ロバートさんは病院のドクターなので、ケニスさん所まで子犬を引き取
りに行けないから、申し訳ないが、届けてくれないか?という条件付きだった
んだ。
ケニスさんは「OK.じゃ、何時がいいのかな?」と聞くと「来週の土曜日は
オフだから、一日中家にいるので、午前中はどうだろう?」という、返事だっ
た。

ロバートさんの家は1時間以上離れたノースの郊外で土曜の朝、子犬を車に乗
せて、出発した。でも、困った事にケニスさんは外国からお客さんが到着する
ので、お昼にはエアポートに迎えに行かなくてはいけなかったんだ。

電話で聞いたアドレスを頼りに初めての町を走り、赤いレンガの家を探した。
番地は389番だ。あった、あった、赤いレンガの家。389番だ。この家に
間違いない。

ケニスさんは子犬を抱えてその家のドアベルを押した。何度も、何度も。
でも、誰も出てこないんだ。電話でその日は一日中家にいるっていったのに!
とケニスさんは少し頭に来たんだ。1時間以上もドライブしてきて、この後は
エアポートに行かなければならない。
まったく、どうすんだ?この子犬は??とドアの前で困っていると、隣りから
声が掛かった。

「どうしたんですか?」
60歳位のきれいなおばさんだ。
「実は、ロバートさんの所にこの子犬を届けに来たんですが、いないんですよ。
誰も家にいないんですよ。午前中って約束したのに」
おばさんは「あー、ロバートならさっき、病院に行きましたよ。でも、何時帰
ってくるか判らないわねえ。じゃ、その子犬は私が預かってあげましょう。う
ちにも犬がいるから、構わないわよ」と言って子犬を預かってくれたんだ。

ケニスさんはきっと、急患が出て、ロバートさんは病院に行かなければならな
かったんだと思って、
「すみません。ご迷惑を掛けますが、ロバートさんが戻るまで、この子犬を預
かって下さい」と言ってそのまま、エアポートに急いだ。
それで、ケニスさんはすっかり安心して、子犬の事は忘れてしまっていたんだ。

次の月曜日。会社に行くと秘書のジェーンさんが
「一体、ケニスさん、どうしたんですか?ロバートさんは土曜日に一日中、家
で子犬を待っていたのに、すっぽかしたでしょう?気が変ったんですか?」
「いや、ちゃんと届けたよ。でも、ロバートさんがいなかったんだ」
「どこに届けたんですか?」
「隣のレデイが預かってくれて、ロバートさんが病院から戻ったら、渡してく
れる事になっていたんだよ」
ジェーンさんはすぐにロバートさんに電話を掛けて、ケニスさんが土曜日にお
隣りの60歳位の女性に子犬を預けた事を伝えると、ロバートさんは家の両隣
は若いカップルでそんな女性は住んでいないというんだ。そこで、ケニスさん
は、自分がどこか間違った所に子犬を置いて来てしまった事に気がついた。そ
の日、午後の約束は全部キャセルして、子犬を引き取りに出かけたんだ。

389番のレンガの家。ここだ。先週来た家は。でも、よくよく見たら、スト
リートの名前が違う。1本通りを間違っていたんだ。
すぐに、お隣りに行って、おばさんに話した。
「すみません。先週の土曜日に子犬を預かっていただいた者ですが、僕が慌て
者で道を間違ってしまって、子犬を貴女に預けてしまいました。今日は、子犬
を引き取りに来たのですが」
というと、おばさんは凄く困った顔をした。

「えー、子犬はもういませんよ。」といって、話をしてくれたんだ。

実は隣の389番のレンガの家に住んでいたのはロバートさんというおじいさ
んで先週の土曜日、丁度ケニスさんが子犬を届ける1時間位前に心臓発作をお
こして、病院に担ぎ込まれ、その晩に亡くなってしまったんだ。だから、病院
に行ったって言ったんだよ。
その後、葬式になり、おばさんはお隣りの家族の人に子犬の事を話すタイミン
グがなくて、やっと月曜日の朝に、子犬を届けたんだって。
ドアベルを鳴らすと、テキサスから娘さんが来ていて、おばさんは貴女のお父
さんが注文した子犬です。土曜日に配達されたけれど、私が預かっていました。
と話すと、娘さんはワーと泣き出して
「有難うございます。父が子犬を注文していたなんて何だか信じられないけれ
ど、これは、きっと、父からの私への最後のプレゼントだったんでしょう。何
て、可愛い子犬なの!有難う、有難う」って泣き崩れてしまったんだ。
「だから、ごめんなさいね。今更、子犬は間違って届けられたなんて、言えな
いわ。きっと、その子犬はあの娘さんの所に行く運命だったのよ」と言って優
しく笑ったんだ。

ケニスさんはなんて言う偶然だろう。同じ番地389番にレンガの家が建って
いて、その家の主の名前がロバートさん。自分が通りを1本間違ってしまって
子犬を届けたけれど、本当にこのレデイの言う通り、運命だったのかも知れな
い、こんな不思議な事があるんだとつくづく感じて、そのまま、家に帰って来
たんだって。
ロバートさんにも電話をしてこの不思議な話をすると、ロバートさんもお医者
さんだから、色々な不思議な事に遭遇するから、すぐに、判ってくれたんだ。 
                                         
つづく(次号掲載は8月19日を予定しています)

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