その45.

そうして、また、7月4日の独立記念日が来た。
僕にとっては、忘れられない迷子記念日でもある。
アメリカに来て初めての独立記念日に、森から迷子になってバーリントンのダウンタウンのパレードの真中でやさしいおじさんとおばさんに助けてもらった日だよ。
今年は、ケニーさんはロバートさんもパーテイに誘ったんだ。
ルビーの子犬事件以来、ケニーさんとロバートさんも仲良しになったんだって。
ロバートさんはあの事件の後、直ぐにジャックラッセルテリアの子犬を知り合いから貰ってとっても、幸せなんだ。
ジャックラッセルテリアはアメリカの映画やテレビでも大活躍で凄く頭がいいので有名なんだ。
実はダデイもジャックラッセルテリアの大ファンで何時か一緒に暮らしてみたいと夢みている。ロバートさんの子犬の名前はジュディ。初恋の人の名前をつけたらしい。
フィルさんのお庭にはプーキーJr.はモチロン、僕にチチ、フィルさんの息子さんの犬のブレンデン(ブラックラブとダルメシアンのハーフ),ルビーにロバートさんのジュディと犬の幼稚園みたいになっていた。
その上、子供達も加わってのキャーキャー、ワーワーの大パーテイだ。
僕は犬の好き嫌いが激しいので,どこにでもマミーにくっついて離れない。
大きな木の木陰で飲み物を持って、ロバートさん、マミー、ケニーさんにあと、知らないおじさん、おばさんが集まって、お喋りをはじめた。
ロバートさんは「僕はロバートです。ケニーさんの所のルビーの子犬を貰って親戚になるはずが、なりそこねました」
その後、あの不思議な子犬の話をみんなにして、
「僕は、医者ですが、犬には本当に不思議な力があるのを何度も経験したので、ちょっと、その話をしましょう。ヒーリング ドッグって、聞いた事がありますか?人の心を和らげたり、中には奇跡としか言いようの無い、病気を治してしまう力です。もちろん、どんな犬にも能力はありますが、中には特別な力がある犬がいるんですよ」
僕は、マミーの足元でねっころがりながら、ロバートさんの話を聞いていたんだけど、
そのヒーリングドッグって、まるで、マーレンの事みたいだなあと思っていた。
「僕の勤めている病院では毎週金曜日にボランテアの犬が患者さんをお見舞いに来る。あー、このボランテアも試験を受けて資格を持った犬だけです。どの犬でも良いわけではないんです。ところが、このボランテアの試験に合格するのは大体が人間にヒドイ目にあった犬達なんです。飼い主が引っ越してしまったのに、クローゼットの中に1週間近くも閉じ込められていたのを助けられたり、子犬の時に目を瞬間接着剤でくっつけられて、危うく、失明しそうになった犬や、車に引っ掛けられて、瀕死の所を助けられたり、とにかく、例を上げたら限が無いほど、信じられないような、辛い、苦しい、ヒドイ目にあった犬達なんです。それが、新しい飼い主さん達が、その犬達を助け、まるで、ご恩を返したいといわんばかりに、人間に深い慈愛を示すんですよ。
まるで、天使みたいなんだ。この犬が見舞いに来るシステムははじめは、養老院から始まったそうです。90歳になるおばあちゃんがホームに入って、すっかり、何もする気力が無くなってしまい、ホームの人達も何とか、おばあちゃんがいろいろなカリキュラムに参加して友達を作ったり、楽しめるようにと努力したけれど、全く反応を示さない。院長さんがおばあちゃんの部屋に行くとベッドの横に犬のカレンダーが飾ってあって、もしかすると、おばあちゃんは犬が好きなのではないかと思って、「おばあちゃん、犬が好きなの?」と聞くと、おばあちゃんの目が輝いて「ええ、好きなのよ」と答えたんです。院長さんはおばあちゃんの親戚の人に直ぐに電話をして、おばあちゃんの犬の歴史を聞いてみると、おばあちゃんの旦那さんが白血病で亡くなった時にも、愛犬が一緒に看取ったというではないですか。その後、その愛犬も亡くなりおばあちゃんも年を取り、犬の世話は無理だという事でここ10年以上も犬は廻りにいなかったそうです。
でも、おじいちゃんの最後を一緒に看取った犬はおばあちゃんの子供でもあったんだそうです。そこで、院長さんがこれは、犬をホームに呼んでみようと自分の妹さんの飼っていた犬を毎週一回、面会に来させたんだそうです。まあ、この犬も捨てられて餓死しそうな所を助けられた犬なんですが。初めての面会の日、おばあちゃんは涙を流して、この年でまた犬に会えるとは思わなかった。と大喜びだったそうです。それから、おばあちゃんはその週一回の面会の日が待ちどうしく、また、エネルギーも沸いてきて、周りの人達とも交流して、ダンスはするは、歌は歌うわと信じられない程、変ったんだそうです。その上、そのおばあちゃんは100歳まで生きたそうですよ。まあ、こんなエピソードがこのボランテア犬のシステムの生みの親だそうです。」
とロバートさんの話はまだまだ、続いていく。

つづく(次号掲載は8月23日を予定しています)

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