その72.
                            
これははデイーナさんとアイバさんのお話だよ。
デイーナさんとアイバさんは50歳を過ぎてから結婚した。
デイーナさんもアイバさんもアイリッシュで二人はインターネットで知り合っ
たんだ。
それに、二人とも初めての結婚だった。
デイーナさんは結婚前にマフィンというヨーキーを飼っていたけれど、15歳
で死んでしまったんだ。
自分の子供のように可愛がっていたので、とてもがっかりしてしまった。
けれど、アイバさんは今まで犬を飼った事がなかったので、デイーナさんがそ
んなにそんなに犬の事で悲しんでいるのが理解出来なかったんだ。
それに、二人とも50歳過ぎるまで独身だったから、結構自分の生活のリズム
があって、自分勝手な所も出て来てしまい、二人は意見の違いも沢山あったん
だよ。
ある朝、デイーナさんは犬の居ない生活は我慢出来ないと遂に、アイバさんに
言ったんだ。
「アイバ、私、どうしても犬が欲しいの。新聞にシェルターの事が書いてある
から、アダプトしていいかしら?」
「駄目!絶対に駄目!犬なんて必要ない!!」
アイバさんは凄く怖い顔をして犬は駄目だ!と言って仕事に出かけて行った。
でも、デイーナさんはアイバさんが出かけた後、コーヒーを飲みながら、アイ
バは駄目だと言ったけれど、えーい、電話しちゃえ!とシェルターに電話して
しまったんだ。

「もしもし、小型の犬はいますか?」
デイーナさんはマフィンの事を思っていた。出来れば、マフィンのような犬が
欲しい。
小さい犬がいいなあと思っていた。
「いますよ。いい子がいますよ」
それを聞いたデイーナさんはいてもたってもいられなくなり、そのまま、車に
飛び乗ると、シェルターに向かってしまったんだ。
シェルターにいたのは、黒のブードルのミックスで、やせ細った、貧弱な犬
だった。
けれど、デイーナさんは嫌だとは言えなかった。マフィンとは月とスッポン
だけど、この貧弱な黒い犬が気に入ってしまったんだ。
シェルターの人は、前の飼い主に苛められて、食べ物もろくに与えられなかっ
たのでやせ細っているけれど、性格はとっても良い犬ですと説明してくれた。

家に帰り、犬をお風呂に入れて、美味しいご飯を食べさせて、アイバさんの帰
りを待ったんだ。
案の定、アイバさんは帰ってから、この犬を一目見るなり
「何だ、この貧弱な小さい汚い犬は!出かける前に言っただろう、犬は駄目だ
って!」
「あら、でも、もうアダプトしてしまったから返せないわよ」
デイーナさんも負けてはいなかった。絶対に返さないとガンと言い張ったんだ。
デイーナさんは犬にネルソンという名前をつけた。
夜になり、床の上にクッションを置いてネルソンを乗せて、さて、寝ようかと
デイーナさんとアイバさんがベッドに入ると、ネルソンはベッドに飛び乗ると
二人の間に入り込んできた。
「しょうがないわねえ。淋しがりやなのね」とデイーナさんはネルソンがベッ
ドで寝ることを許したんだ。
そうして何時間か過ぎると、
「ギャー、何だ、濡れてぞ」
アイバさんが飛び起きた。何と、ネルソンがベッドの上でオシッコしちゃった
んだ。
「だから、言ったじゃないか!犬は外で暮らすもんなんだぞ。マットレスもビ
ショビショだ。どうするんだー」とアイバさんはカンカンになって怒鳴り散ら
した。
それから、二人でマットレスをひっくり返したりして大変な大騒ぎになってし
まったけれど、また、二人がグッスリと寝込むと、ネルソンは何事もなかった
かのように二人の間に潜り込んで来たんだ。

それが、ネルソンの初日だったけれど、あんなに怒っていたアイバさんも日ご
とにネルソンの可愛さに気がついて、何時の間にか、自分の事をダディと呼ん
で、ネルソンを子供のように思うようになって行ったんだよ。毎日仕事から帰
ると、2時間はネルソンと遊ぶのも日課になって行ったんだ。

所が、ある日、アイバさんは仕事場で気分が悪くなってしまい、早く家に帰る
ことにした。
「どうしたの?アイバ、顔色が悪いわよ」
「うーーん、気分が悪いんだ。熱もあるし、風邪をひいてしまったみたいだ」
「早く寝たほうがいいわね」
その数日前、デイーナさんも左手の筋の手術をしたばかりだったから、アイバ
さんは風邪薬、デイーナさんは物凄く強い痛み止めを飲んで、早めにベッドに
入る事にしたんだ。

デイーナさんは痛み止めのせいですっかり深い眠りに入り、何が起きても目が
覚めない状態になっていた。何時間かすると、ネルソンがデイーナさんの顔を
ベロベロと舐め始めた。
「うーーん、何?ネルソン、放っておいてよ。」
薬のせいでデイーナさんはモウロウとしていて、目が覚めない。
それでも、ネルソンは何とかデイーナさんを起そうと、ベロベロ、ベロベロと
デイーナさんの顔を舐め続けて、何とか目を覚まさせようとしたんだ。
「全く、ネルソン、何なのよ、うるさいなあ」
ついに、デイーナさんが目を覚まして、ふと、横で寝ているアイバさんをみる
と、体をエビのように曲げて、ガタガタと震えて、冷や汗をぐっしょりかいて
いる。
「ど、どうしたの、アイバ!大丈夫?」
「さ、さむい、寒い」
これは、大変だ。デイーナさんは飛び起きると、何とかアイバさんをベッドか
ら立たせて、車に乗せて、救急病院に走ったんだ。

検査の結果、アイバさんは風邪ではなくて、足の傷から入ったバクテリアが体
を廻り始めていて、このバクテリアは体の細胞を食べてしまうという凄く恐ろ
しいものだったんだ。
だから、もう少し遅かったら、アイバさんの体はこのバクテリアにやられて、
助からなかったんだって。
本当に危機一髪だったんだよ。
お医者さんに強い抗生物質を沢山打って貰って、アイバさんは助かったんだ。
もし、ネルソンが異変に気がつかないでデイーナさんを起さなかったら、デイ
ーナさんは自分も強い痛み止めを飲んでいたからきっと、目が覚めなかったに
違いない。
ネルソンはアイバさんの命を救ってくれたんだって、とっても感謝したんだよ。

アイバさんは退院すると、ネルソンにマッサージの機械を買って、毎日ネルソ
ンはマッサージを受けている。これ以上ないという位、スポイルされて、大事
にされるようになったんだ。
もちろん、デイーナさんとアイバさんもネルソンの御蔭でもっと、中の良い夫
婦になったんだって。
そうそう、うちのマミーも僕にバレンタインのプレゼントでマッサージの機械
を買ってくれたよ。
僕にはこの冬の寒さがこたえて、神経痛になっちゃったんだ。
だから、朝はダデイの関節l強化のお薬のタブレットを半分飲んで、その後は
ブルブルって、マッサージしてもらっているよ。
もう、気持ち良くって、目がひっくりかえって、よだれが出そうになっちゃう
んだ。最高だ。

つづく(次号掲載は4月25日を予定しています)