その74.
アナさんは小学校の先生だ。
愛犬のブラックラブラドールのクーパーはその小学校で読み書きに問題のある
子供達の相手をするセラピードッグなんだ。
春休みになり、アナさんは旦那さんと子供達を連れてデズニーランドに行く事
にしたのだけれど、すっかり、クーパーをケンネルに預ける事を忘れてしまっ
たんだ。
電話帳の端から端まで、ケンネルというケンネルに電話をしたけれど、春休み
のため、どこも満員で断られてしまったんだ。
困ったアナさんは最後の頼みで、友人のクリステーナさんに電話を掛けた。
クリステーナさんの愛犬もブラックラブラドールなので、自分の愛犬トニーと
クーパーが喧嘩せずに仲良くやって行けるようなら、預かっても良いとの返事
だった。
アナさんはクーパーを連れて、クリステーナさんの家を訪ねた。
みんなの心配をよそに、クーパーとトニーは会った途端に仲良しになり、クー
パーがホームステイする事は直ぐに決まったんだ。
クーパーもトニーもお互い一人っ子同士だから、インスタントな兄弟が出来た
ようで、2匹で仲良く遊んでいたんだ。
さて、アナさん一家はデズニーランドに出かけて行き、クリステーナさんの所
には、カリフォルニアからお母さんが遊びに来ていたけれど、お母さんも大の
犬好きでクーパーもトニーも可愛がってもらっていたんだ。
ある晩の事だった。
クリステーナさんは何かくさい臭いが気になって、地下室の湯沸かし器を見に
行ったけれど、オイルの臭いはするけれど、二酸化炭素探知機はノーマルだっ
たので、気のせいかと眠ってしまったんだ。
1時間、2時間たつと、クーパーとトニーは何か異変に気が付いて、起きると
お母さんのベッドの所に行ってと、ワンワン咆えて、お母さんを起そうとした
んだ。
お母さんはきっと、犬達がオシッコに行きたいのだとドアをあけて、クーパー
とトニーを外に出したんだ。
でも、家に戻ってからも、2匹は、咆えたり、顔を舐めたりとお母さんを眠ら
せないんだ。
それから、クリステーナさんのベッドルームに行き、咆えたり、ベッドカバー
をはいだりして何とか、クリステーナさんを起そうとした。
クリステーナさんはトニーがそんな事を夜中にするのは初めてで、ビックリし
てしまったんだ。
「どうしたの?トニー、クーパー。何が欲しいの?」
クリステーナさんがガウンを羽織って、スリッパに足を入れると、トニーとク
ーパーが寝巻きの裾を引っ張って、地下室のドアのところまで来たんだ。
「ここ?地下室?」
クリステーナさんはドアを開けて、地下室に降りて行ったんだ。
地下室はすごい臭いだった。
クーパーはオイル湯沸かし器の下をガリガリと掘り始めて、ここがおかしいん
だ!ってクリステーナさんに知らせようとしたんだよ。
二酸化炭素探知機はとっくに危険信号になって赤のランプが点滅していた。
ビックリしたクリステーナさんは
「大変だー。トニー、クーパー、外に行きなさい、お母さん、早く外に避難し
て!!」
と大声で叫んだんだ。
すぐに消防署に電話して、全員で外に避難したんだよ。
消防署の人たちが駆けつけて、地下室を調べると、オイル湯沸かし器の不完全
燃焼で二酸化炭素が家の中に充満していて、もし、あのまま、眠ってしまって
いたら、二酸化炭素中毒で全員死んでしまう所だったんだ。
二酸化炭素中毒は静かなキラーと呼ばれていて、知らないうちに皆を殺してし
まうとっても怖い事なんだ。
クリステーナさんはクーパーがホームステイしていたのも、偶然の事ではない
と思ったんだ。
きっと、トニーとクーパーが共同で考えを巡らせて、クリステーナさん一家を
救ってくれ
たんだって信じているよ。
つづく(次号掲載は5月9日を予定しています)
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