その96.

 雪が溶けた後はどんどんと春が近づいてくるのがわかるよ。
マミーのガーデンにも緑の小さな植物の芽が出てきたし、チュウーリップも毎日
ズンズンと大きくなり、クロッカスがパープルの花を付けた。
そうすると、今まで家にこもっていたご近所の人たちがお散歩に大勢出てくるん
だ。
冬の間、顔を合わせなかったので、道で出会うとマミーはいつも立ち話をする。
すると、ご近所で色々なドラマが冬の間に起きていたことが判るんだ。

ある日、午後のお散歩で湖から戻ってくると、前から、チャビーなおばちゃんが
一人で歩いてきた。
「こんにちは!天気が良くなって良かったですね」と声をかけると
「本当に。ねえねえ、この小さいほうの犬は何犬?」
といつものように、チチが変わった犬なので、おばちゃんが興味を示した。
「雑種ですよ。スーパー雑種。でも、香港から捨てられたのをレスキューしてき
たの」
「まあ、雑種が一番。頭もいいし、丈夫だし。私も2匹かっていたんだけれど、
去年、二匹とも死んじゃったのよ。ダルメシアンとゴールデンリトリバーのミッ
クスだったんだけれど」
そこで、マミーはこのおばちゃんが誰だか、思い出した。
2年位前に近所に引っ越してきた人だ。時々、ダルメシアンと茶色の僕に似た犬
と連れて散歩していたけれど、ダルメシアンは凄く好戦的な奴で、僕たちを見る
と、飛び掛ってきたので、飼い主さんはそれから、僕たちに近づかないように、
道で会うと、横道にそれたりしていたんだ。
「えーー、貴女の犬たち、覚えていますよ。そういえば、お散歩で会いませんで
したね。一体どうしたんですか?」
「ダルメシアンのほうは13歳半でもともと、病気もちだったのよ。ダルメシア
ンにしては長生きだったんだけれど、もう一匹のほうは14歳で、別になんの問
題もなかったんだけれど、相棒が死んで、その後1ヶ月くらいして、夜中に急に
死んでしまったの。寂しくなってしまったのかしらね。後をおうように死んじゃ
ったのよ」
「まあ、一度に2匹ともじゃ、悲しいですね。私もこのごろ、もし、この子達に
何かあったら、どうしようかって、凄く心配になってきているんですよ」
「また、心の整理がついていないんだけれど、次に犬を飼うときは、貴女のこの
小さい方の子のような犬がいいわ。小さくないし、大きくないし、頭もよさそう
だし。。。でも、13年も14年も一緒に暮らすと、家族の一員よね。
ペットだとか犬だとかそんな次元じゃないのよね。それじゃ、またね」
「さようなら」
と長い立ち話を終えて、僕たちは家に帰った。

それから、何日か後のお天気の良い日に、お散歩の途中で、他のおばちゃんと出
会った。このおばちゃんは家の並びのご近所の人で、元看護婦さんなんだ。
「あら、久しぶりね、お元気?」
と声を掛けて来たので
「まあ、本当に久しぶりですね、ワンちゃん元気ですか?」
おばちゃんは黒いミニチュアプードルを飼っていたんだ。
「あの子、死んじゃったのよ。3月4日に」
「ええーーーどうしたんですか?」
おばちゃんはプードルの話をしたかったのか、それから、マミーと長い立ち話を
始めたよ。
「あの子もよく頑張ったのよ。16歳だったんだけれど、目は見えないし、耳も
聞こえないし、その上、糖尿病でインシュリンも打っていたし」
「ええ、インシュリンですか?」
「そう、人間と同じもの。それに、オシメもしていたしね。ここ2ヶ月くらいは、
夜中によく、発作を起こしたので、私も看病で眠れなかったの。前の日に獣医さ
んの所に連れて行ったら、そろそろ、眠らせた方がいいんじゃないか、って言わ
れたんだけれど、それだけは出来ない。って断ったの。でも、ハートウォームの
薬を買おうとしたら、ハートウォームのテストをしないと売らないと言ってきて、
可哀想に針をさされて痛いテストも受けさせられて、150ドル取られたんだけ
れど、次の日に、心臓麻痺で、死んでしまったのよ。頭にきたので、獣医さんか
らお金返して貰ったけれど。私は以前は4匹犬を飼っていたの。セントバーナー
ドとゴールデンリトリバーとプードル2匹。セントバーナードとゴールデンが年
で次々と死んで
3匹目のプードルとマフィン、マフィンは最後のプードルのことだけれど、は物
凄く仲良しだったのよ。シスターズって呼んでいた位なの。だから、3匹目が死
んだとき、マフィンも後を追うんじゃないか、って心配したの。

でも、それが、次は、私の旦那だった。突然、心臓麻痺でポックリ死んでしまい、
マフィンに「お願いだから、あなたは死なないで。これじゃ、本当に一人ぽっち
になってしまう。」とお願いして、マフィンは4年間も頑張って私の側にいてく
れたのよ。
旦那を突然亡くすのは、犬が死んでしまうのとは、比べ物にならない位、苦しく
て辛いことだけれど、あの時、マフィンが側にいなかったら、私は乗り切れなか
ったかもしれないわ。だから、糖尿病でインシュリンを打たなくてはならなくて
も、オシメをしなくてはならなくても、最後まで、マフィンの面倒は見ようと思
ったのよ。」
「大変だったんですね。それで、次の犬はどうするんですか?」
「もう、飼わない事にしようと思っているの。私は孫が9人いるから、新しい犬
は子供たちと仲良くできる犬じゃなければ、駄目だし、それに、また、死なれる
のが辛いから。これからは、本当に一人の生活よ」
と言って、おばちゃんは去って行った。
それから、僕たちは帰り道でそれぞれ、物思いにふけってしまったよ。
知らないところで、沢山のドラマが展開していたんだね。
マミーはますます、僕とチチのことが心配になってきたらしい。
今年で、僕は11歳,チチは10歳だ。
後何年一緒に暮らせるのか?、もし、僕かチチにもしもの事があったら、どうし
ようと、真剣な問題になって来たんだって。
僕は、そうか、マフィンもあのダルメシアンもゴールデンも死んでしまった、と
聞いたけれど、死んでしまうっていうのはどういうことなんだろう?
ここからいなくなると言うことなのかな?生まれ変わったら、僕が忍ちゃんの生
まれ変わりだというように、次もマミーの所に生まれ変わって戻ってこれるのか
な?

つづく